市川團十郎 (11代目)

十一代目市川團十郎：戦後歌舞伎を彩った「花の海老さま」

十一代目市川團十郎（1909-1965）は、戦後歌舞伎界を代表する名優です。本名堀越治雄。七代目松本幸四郎の長男として生まれ、幼少期からその才能をいかんなく発揮しました。端麗な容姿と、品格と華やかさを兼ね備えた芸風は「花の海老さま」と称賛され、空前のブームを巻き起こしました。その魅力と波瀾万丈の生涯を紐解いていきましょう。

華麗なるデビューから「花の海老さま」へ

6歳で初舞台を踏み、以降順調にキャリアを重ねます。しかし、10代の頃には肺結核を患い療養生活を送るなど、苦難の時期も経験しました。青年期には、九代目市川高麗蔵を襲名。その後、九代目市川團十郎の娘婿である市川三升を養父として市川宗家へ養子に入り、1940年には九代目市川海老蔵を襲名しました。

この頃から、端正な容貌と華麗な芸風で注目を集め始めます。特に戦後、1946年の『助六由縁江戸桜』での助六役は大評判となり、人気は不動のものとなります。「海老さま」の愛称で親しまれ、戦後歌舞伎界の低迷を打破するほどのブームを巻き起こしました。

名優としての軌跡：数々の当たり役と演出家としての才能

「花の海老さま」として絶大な人気を博した團十郎は、数々の当たり役を演じました。『源氏物語』の光源氏、『若き日の信長』の織田信長など、時代劇から現代劇まで幅広い役柄をこなし、その高い演技力で観客を魅了しました。大佛次郎作品の新歌舞伎にも多く出演し、「海老蔵と大佛」は、新たな歌舞伎の時代を築き上げました。

晩年には、十一代目團十郎を襲名。59年ぶりに復活した大名跡を継承し、さらに演出にも挑戦するなど、歌舞伎界への貢献は多岐に渡りました。しかし、襲名からわずか3年半後、胃癌のため56歳という若さでこの世を去りました。

気難しい性格と人間関係

舞台上では華やかで魅力的な團十郎でしたが、私生活では気難しい面も持ち合わせていました。頑固で几帳面、神経質で癇癪持ちという性格は、周囲を困らせることも少なくありませんでした。初役の初日を突然休演したり、父・七代目幸四郎の追善興行を欠席したりするなど、その行動には予測不可能な面もありました。しかし、その裏には、歌舞伎への深い愛情と、市川宗家としての責任感があったといわれています。

家庭人としての團十郎

私生活では、結婚、離婚を経て、千代夫人と再婚。長男・夏雄（十二代目團十郎）、長女・治代をもうけました。子煩悩な一面を持ち合わせており、家族との時間を大切にしていました。釣り好きでもあり、家族で旅行に出かけたり、海水浴に行ったりと、現代的な役者としての面も持ち合わせていました。

伝説として語り継がれる「花の海老さま」

十一代目團十郎は、短い生涯の中で、戦後歌舞伎界に大きな足跡を残しました。「花の海老さま」として、その華麗な芸風と圧倒的な人気は、多くの人々の記憶に深く刻まれています。彼の功績は、十三代目團十郎にも受け継がれ、現在も歌舞伎界に大きな影響を与え続けています。その生涯は、多くのファンや関係者に惜しまれ、今もなお伝説として語り継がれています。

参考文献

前田青邨・大佛次郎監修『市川團十郎』淡交社、1970年
石井雅子『十一世市川團十郎』朝日ソノラマ、1981年
利根川裕『十一世市川團十郎』筑摩書房、1980年
中川右介『十一代目團十郎と六代目歌右衛門 悲劇の「神」と孤高の「女帝」』幻冬舎新書、2009年
* 関容子『海老蔵そして團十郎』文藝春秋、2004年

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