市村咸人

市村咸人（いちむら みなと）は、1878年1月2日に長野県下伊那郡米川村（現在の飯田市）で生まれ、1963年11月28日に生涯を閉じた郷土史家、教育者です。

教育者としての経歴は、1902年に長野県師範学校講習課を修了後、長野県内の小学校で教鞭を執り始めました。1919年には山本尋常小学校の校長に就任し、その後1921年から1932年まで旧制飯田高等女学校で教諭として教鞭を執りました。教員生活の傍ら、郷土史研究にも情熱を注ぎました。

1912年、市村は下伊那郡役所から松尾多勢子に関する研究を委託されたことをきっかけに、長野県や県下各教育会からの依頼を受け、史論の執筆や調査研究に携わるようになりました。彼は、「信濃史料」「伊那史料叢書」「長野県史」「下伊那史」といった重要な史料の編纂に深く関わりました。また、飯田図書館の副館長も務め、地域文化の発展にも貢献しました。

市村の研究対象は非常に多岐にわたりました。考古学、史跡、建築、仏教美術など、幅広い分野にわたって研究を行い、その研究は実証的批判に基づいたもので、地方史研究のレベルを大きく向上させました。彼の功績は高く評価され、1960年には紫綬褒章を受章しました。

市村咸人の業績は、全12巻に及ぶ「市村咸人全集」にまとめられています。また、彼が収集した約4800冊の蔵書は、「市村文庫」として下伊那教育会に寄贈され、地域文化の発展に役立てられています。

なお、演劇研究者として知られる河竹繁俊は、市村咸人の実弟です。

市村咸人は、郷土史研究における実証主義的な手法の確立に大きく貢献しました。彼の学術的な業績は、今日の郷土史研究においても重要な基盤となっています。また、教育者としての経験も、彼の研究活動に深く影響を与えたと考えられます。

【参考文献】

『長野県歴史人物大事典』 郷土出版社、1989年
『20世紀日本人名事典』日外アソシエーツ、2004年
日下部新一『市村咸人先生伝』

【外部リンク】

『市村咸人』 - コトバンク

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