松尾多勢子

松尾多勢子

松尾多勢子（まつお たせこ、1811年9月22日 - 1894年6月10日）は、幕末の激動期に尊皇攘夷運動で活躍した女性です。信濃国伊那郡（現在の長野県飯田市）の豪農の家に生まれ、幼少期から学問に親しみ、和歌や国学に造詣が深かったとされています。島崎藤村の小説「夜明け前」にも登場する人物として知られています。

生涯

多勢子は、19歳で地元の旧家・松尾家に嫁ぎ、7人の子供を育てました。夫と共に和歌や平田派国学を学び、文武両道に励む日々を送っていたとされています。51歳の時、病弱な夫の許しを得て上洛し、尊皇攘夷運動に参加しました。

京都では、公家の白川家や大原家に出入りし、信州から来た歌を詠む珍しい老女として評判を呼びました。しかし、足利三代木像梟首事件に関与した疑いをかけられ、長州藩の京屋敷に身を隠すことになります。その後、密かに帰郷し、天誅組や水戸天狗党の支援者として活動しました。また、幕府に追われる身であった角田忠行、相楽総三、長谷川鉄之進らを匿ったとされています。

慶応4年（1868年）には再び上洛し、岩倉具視に仕えました。岩倉家では子女の教育や家政を取り仕切り、その手腕から「岩倉家の女参事」と呼ばれました。当時、岩倉家の家庭教師であった三輪田真佐子は、多勢子を「見習うべき代表的な日本女性」として称賛しています。

新政府樹立後は、新政府関係者との連絡調整役としても活躍しましたが、間もなく帰郷。地元で農業や養蚕に勤しみ、晩年は地域社会に貢献しました。旧知の品川弥二郎が明治天皇巡幸の先駆けとして飯田を訪れた際には、長年村の悲願であった尹良親王の墓所治定を実現させたという功績も残しています。

多勢子の死後、その功績が認められ、1903年に正五位が贈られました。

伊那谷と国学

幕末の信濃南部では、国学が盛んに学ばれていました。文政年間には、本居宣長の門下である植松茂岳らが『古今集』や『新古今集』を講義のために訪れました。また、飯田に滞在した岩崎長世の歌会などを通じて、平田篤胤の国学が広く伝えられました。慶應3年には、国学の四大人を祀る「本学霊社」が建立され、多勢子も国学への関心を深めていきました。歌道は、桜井春樹、福住清風、石川依平、小林歌城に師事し、その名を広く知られるようになりました。

家族

父：竹村常盈 - 信州座光寺村（現・飯田市）の名主。北原家出身。学問に優れた家柄で、多勢子は少女期に北原家に預けられ、従兄の北原因信から読み書きと和歌を学びました。
夫：松尾佐次右衛門淳斎 - 松尾家11代当主。造り酒屋を営んでいました。多勢子と共に国学を学び、安政4年（1857年）には平田学派の門人となっています。
長男：松尾誠 - 戊辰戦争では奥羽鎮撫使副総督澤為量の近習として従軍し、各地を転戦しました。のちに県議会議員を務めました。
三男：松尾為誠 - 戊辰戦争では北原稲雄と共に東山道先鋒総督府に従軍し、関東各地を転戦しました。
孫：松尾千振 - 県議会副議長を務めました。

参考文献

『長野県史 通史編 第7巻 近代1』
市村咸人『松尾多勢子』
『郷土歴史人物事典 長野』第一法規 1978年

関連項目

本学神社 - 歌碑がある

外部リンク

幕末明治の激動期を生き抜いた女性松尾多勢子 - 吉見周子、東海大学『無限』259号、2010
松尾多勢子没後100周年記念番組（その①） - 長野県豊丘村Youtube公式チャンネル
松尾多勢子没後100周年記念番組（その②） - 長野県豊丘村Youtube公式チャンネル

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