市河家文書

市河家文書について

市河家文書（いちかわけもんじょ）は、信濃国志久見郷を拠点とした市河氏とその外戚関係にある中野氏によって残された書簡や古文書の総称であり、平安時代末期から戦国時代にかけての市河氏の歴史を示す重要な武家文書群です。市河氏は、江戸時代に編纂された『甲斐国志』によると、甲斐国巨摩郡市河荘を本貫地とし、一部は鎌倉時代初期に信濃地域に移住したとされています。また、古文書には市河氏と中野氏との結びつきや志久見郷での権力の構築が描かれ、信濃や越後との国境近くでの歴史的背景も伺えます。

市河氏は鎌倉時代中期に中野氏を被官化し、この地域で独自の勢力を持ったとされます。戦国時代には武田氏の配下として活動し、江戸時代には上杉氏に従い、文書も長年にわたって代々受け継がれてきました。しかし、明治時代にはこの文書が他家に流出し、特に昭和初期に本間家に伝わることとなりました。現在、本間美術館に所蔵されている市河家文書は、平安時代末から室町時代初期までの資料がほぼ揃っており、信濃や越後、甲斐の重要な歴史的文書と考えられています。文書には、地頭職や当時の公文書に関連する重要な記録が多く含まれています。

具体的には宣旨や庁宣、国宣、感状、訴状、譲状、契状など多岐にわたりますが、残存状況は室町時代初期までに偏っており、戦国時代の文書は市河新六郎宛ての武田家朱印状の一通のみが現存しています。

さらに、1969年には市河氏の子孫が釧路市で文書を受け継いでいたことが判明し、これにより中世から近世にかけての文書、系図などが発見されました。中には、武田家の軍師山本勘助に関する物証が含まれており、彼の実在性を裏付けるための重要な資料とされています。これらの発見により、市河氏の歴史はより明らかになり、1976年には釧路市の文化財に指定されました。

市河家文書はまた、長野県立歴史館に所蔵される県立長野図書館旧蔵文書にも一部含まれており、2009年には山梨県が個人所有の文書を購入し、山梨県立博物館に収蔵されました。

市河氏の系図も近世期に編纂され、米沢藩士としての地位を示す重要な資料です。これらの系図や文書は、上杉家による家史編纂の一環としても参考にされてきたと考えられています。

市河文書は、その数や内容の豊富さから、信濃平野の歴史研究にとって極めて重要な資源として位置づけられています。信濃の地方豪族の動向、武田家との関係、さらには中野氏を初めとする地域内の血縁関係が、これらの文書を通して読み取ることができるのです。市河家文書をはじめとする古文書は、歴史的な証拠を提供し、当時の社会や政治状況を知る上で貴重な資料としての役割を果たしています。

もう一度検索