帥升

帥升（すいしょう）

帥升（生没年不詳）は、弥生時代中期から後期にかけての倭国（当時の日本列島に存在した複数のクニの一つ）の有力な王と推測される人物です。西暦107年に後漢王朝へ朝貢したことが記録されており、日本の歴史において、外国の歴史書に初めて名前が記された日本人、かつ実在性が確定している人物としては最古の一人とされています。

概要

帥升に関する記述は、『後漢書』東夷伝に見られますが、倭国の具体的な所在地は不明瞭です。九州地方とする説が有力ですが、帥升という名称が個人名なのか、役職名なのかも確定していません。また、これ以前の57年に後漢から金印を授与された倭奴国との関係も不明であり、献上された生口（せいこう）の意味についても様々な議論があります。

『後漢書』以外の文献にも帥升に関する記述が見られますが、これらは『後漢書』の記述を基にしたものと考えられています。しかし、現存する『後漢書』とは内容が異なる点もあり、『後漢書』の原本が現在伝わるものとは異なっていた可能性も指摘されています。

帥升以前に外国の史書に日本人の個人名が登場することはありません。そのため、帥升は外国の史書に名が残る最初の日本人とされています。次に登場するのは、魏志倭人伝に記された卑弥呼です。

帥升については、『後漢書』などの限られた記述から、様々な推論が試みられています。

称号

57年に倭奴国の大夫が後漢に朝貢し、光武帝から印綬を授与されたのに対し、『後漢書』東夷伝では、帥升は生口を献上し謁見を求めたのみとされています。このことから、倭奴国王は後漢に王として承認されたものの、帥升は王とは認められなかったとする説があります。一方で、『後漢書』東夷伝に「倭国王」と記載されていることを根拠に、王として認められていたとする説も存在します。

姓名

現存する『後漢書』の写本には「帥升等」と記されています。この「帥升」が姓名なのか、単なる名前なのかは議論が分かれています。中国では「帥」という姓が非常に稀であるため、「帥」は誤記ではないかとする説や、「升」を「斗」の誤りとする説もあります。また、「帥升等」全体を一つの名前と解釈する説や、「帥」を役職名とする説も存在します。

「倭國王」の解釈と帥升の所在地

『後漢書』の「倭國王帥升等…」における「倭國王」の解釈や、帥升の所在地については、様々な説がありますが、いずれも推測の域を出ません。かつては、「倭國」は統一された倭国全体を指すと解釈されていました。

しかし、一部の文献では「倭面上國王帥升…」や「倭面土國王師升等…」と記述されており、内藤湖南は『後漢書』の原本が「倭面土國王帥升」であった可能性を指摘し、「倭面土」は「ヤマト」の中国語表記ではないかという説を唱えました。

本居宣長は、「倭面土地王師升等」という表記から、「一つのちひさき國の王」のようだ、と述べています。白鳥庫吉は、「倭面土國」を「倭の回土(ヱト)國」と解釈し、伊都国を指すという説を提唱しました。橋本増吉は、「面土」をmetu-laの音訳とし、「末盧國」に当てる説を唱えました。

このほか、「倭面土」を「ヤマト（ワミャト）」と読む説、帥升は奴国王位を継承したとする説、伊都国王だったとする説などがあります。「面土」を青刺のことだと解釈し、「倭面土國」を入れ墨の風俗の国だとする説もあります。

帥升の実像は謎に包まれていますが、当時の倭国の状況を知る上で重要な人物であることは間違いありません。

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