伊都国

伊都国（いとこく）とは

伊都国は、『魏志倭人伝』などの中国の史書に記されている、古代日本に存在したとされる国の一つです。現在の福岡県糸島市とその周辺地域に位置していたと考えられています。伊都国は、当時、倭国の中でも重要な役割を担っていたとされ、その痕跡は数々の考古遺跡から伺い知ることができます。

『魏志倭人伝』における伊都国

『魏志倭人伝』には、伊都国は末廬国（まつろこく）から陸路で東南に500里進んだ場所に位置すると記されています。伊都国の長官は「爾支（にし、じき）」、副官は「泄謨觚（せつもこ、せつぼこ、せもこ）」と「柄渠觚（ひょうごこ、へいきょこ、へくこ）」と呼ばれていました。また、1000戸以上の家があり、代々王がいたとされ、女王国に従属していたとされています。帯方郡の使者が頻繁に往来し、滞在する場所でもありました。

『魏略』では、伊都国の戸数は1万戸以上と記されており、長官は「爾支（にき、じき）」、副官は「洩渓（せつけい）」と「柄渠（ひょうご、へいきょ、へく）」とされています。この記述からも、伊都国が当時、大きな勢力を持っていたことが伺えます。

一大率（いちだいそつ）

伊都国には、女王国が派遣した「一大率」が常駐していました。一大率は、女王国の北側諸国を監視し、検察する役割を担っていました。その権威は非常に大きく、各国は一大率を畏れ、従っていたとされています。一大率は、現代でいうところの地方長官のような存在で、伊都国は政治的にも重要な拠点であったと考えられます。

日本側の文献

『日本書紀』には、伊都国の前身である伊覩縣（いとのあがた）の祖が、五十迹手（いとて）という人物であったと記されています。五十迹手は仲哀天皇の筑紫親征の際に帰順し、宝物を献上したとされています。また、『釈日本紀』が引く『筑前国風土記』の逸文には、五十迹手が「高麗の意呂山（おろのやま）から天降った日桙（ひぼこ）の末裔である」と述べたという記述も残されています。これらの伝承から、伊都国が古代において重要な役割を担っていたことがうかがえます。

考古遺跡

伊都国があったとされる糸島平野周辺では、弥生時代中期から終末期にかけての王墓が数多く発見されています。これらの王墓は、当時の権力者の存在を示す重要な証拠であり、伊都国の繁栄を物語っています。

三雲南小路遺跡（みくもみなみしょうじいせき）

三雲南小路遺跡は、方形周溝墓であり、2基の甕棺墓が中心です。1号甕棺からは、銅剣、銅矛、銅戈、ガラス璧、ガラス勾玉、ガラス管玉、銅鏡など、多数の副葬品が出土しています。特に、30面以上出土した銅鏡は、当時の権力者の力を示すものです。2号甕棺からは、内行花文鏡（日光鏡）や、ガラス小勾玉などが出土しており、1号甕棺が王、2号甕棺が王妃の墓である可能性が高いと考えられています。また、出土した有柄銅剣は、熱田神宮に祀られている天叢雲剣との関連性も指摘されています。

井原鑓溝遺跡（いわらやりみぞいせき）

井原鑓溝遺跡からは、21面の鏡が出土しています。これらの鏡は、方格規矩四神鏡と呼ばれるもので、後漢時代のものであると考えられています。また、巴形銅器や鉄刀なども出土していますが、細形銅剣や銅矛は発見されていません。このことから、この遺跡は将軍クラスの墓である可能性が指摘されています。

平原遺跡（ひらばるいせき）

平原遺跡は、曽根遺跡群に属する遺跡で、5基の周溝墓群から構成されています。1号墓は「王墓」であり、「女王墓」ではないかとも言われています。1号墓からは、直径46.5cmの大型内行花文鏡をはじめ、大量の青銅鏡、勾玉、管玉、鉄刀などが出土しています。これらの副葬品は、一括して国宝に指定されており、三種の神器の八咫鏡との関連性も議論されています。

まとめ

伊都国は、『魏志倭人伝』に記された古代の国の一つであり、現在の福岡県糸島市を中心に栄えていました。重要な政治・文化の中心地であり、多くの考古遺跡がその存在を物語っています。特に、三雲南小路遺跡、井原鑓溝遺跡、平原遺跡は、その代表的な遺跡であり、伊都国が倭国の中で重要な役割を担っていたことを示すものです。

資料文献

「柳園古器略考」青柳種信著
「原田大六論」原田大六著
「実在した神話」原田大六著
「平原弥生古墳　大日孁貴の墓」原田大六著
「悲劇の金印」原田大六著
「倭女王　大日孁貴の墓」井手將雪著
「前原市文化財調査報告書　第七十集　平原遺跡」

関連項目

三雲・井原遺跡
魏志倭人伝
弥生時代
曽根遺跡群
平原遺跡

外部リンク

伊都国とは - コトバンク
糸島市伊都国歴史博物館

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