常照寺 (京都市)

寂光山 常照寺

京都市北区の鷹峯地域に位置する寂光山常照寺は、日蓮宗に属する寺院です。本尊として三宝尊を祀り、京都における日蓮宗の重要な拠点の一つとして歴史を刻んできました。特に、桜や紅葉の美しい景観で知られ、多くの人々がその季節ごとの風情を楽しむために訪れます。

歴史

常照寺の歴史は、江戸時代初期にさかのぼります。当時、この鷹峯の地はまだ開発が進んでおらず、治安が不安定な地域でした。慶長年間（1596年-1615年）の初めには、芸術家として名高い本阿弥光悦が現在の光悦寺がある場所に別宅を構えていましたが、元和元年（1615年）に徳川家康からこの一帯の広大な土地を与えられます。当時の様子を記した『本阿弥行状記』には、この地が「辻斬り追い剥ぎ」が出没するような危険な場所であったことが記されています。

このような地に、翌元和2年（1616年）、光悦とその養子である光瑳によって「法華の鎮所」として信仰の拠点が建立されました。これが常照寺の草創期にあたります。元和5年（1619年）になると、光悦は一族や様々な工芸分野の職人たち、そしてその家族ら総勢100人以上を引き連れて本格的にこの鷹峯に移り住みました。彼らはここに一大芸術村、いわゆる「光悦村」を形成し、日本の芸術文化に大きな足跡を残します。光悦はまた、自身の屋敷の近くに法華題目堂を建立しましたが、これは光悦の死後、光悦寺として発展することになります。

常照寺が正式な寺院として整備されるのは、寛永4年（1627年）のことです。日蓮宗の中興の祖と仰がれる日乾上人が、光瑳の招きを受けて「法華の鎮所」に入山しました。日乾上人はこの地を改めて寺院として整え、寂光山常照寺と命名しました。さらに、日蓮宗の学問所である檀林（鷹峰檀林）を開設し、多くの学僧を育成しました。最盛期には、大小合わせて30以上の堂宇が建ち並び、200名を超える学僧たちが勉学に励んでいたと伝えられています。この頃には「常照講寺」とも呼ばれるほど隆盛を極めました。

常照寺の歴史において特筆すべきは、江戸時代の名高い遊女、二代目吉野太夫との関係です。寛永5年（1628年）、日乾上人に深く帰依していた吉野太夫は、寺に山門を寄進しました。この山門は現在も「吉野門」と呼ばれ、常照寺の象徴の一つとなっています。また、境内には二代目吉野太夫の墓もあり、常照寺が彼女ゆかりの寺院として大切にされていることを示しています。

しかし、明治維新後の1872年（明治5年）、学制発布により鷹峰檀林は廃止され、かつての賑わいは失われてしまいました。それでもなお、常照寺は鷹峯の歴史を見守り、静かな佇まいを保ち続けています。

境内

常照寺の境内には、多くの歴史的な建造物や見どころがあります。主要な堂宇としては、創建当時は講堂であったと伝えられる本堂があります。本堂に掲げられた扁額「旃檀林」は、日潮上人の筆によるものです。その他、日常の寺務を司る庫裏があります。

境内には、二代目吉野太夫と、彼女の夫であった豪商・灰屋紹益の供養塔である比翼塚が建立されています。これは1971年（昭和46年）に歌舞伎役者の片岡仁左衛門によって建てられました。また、常照寺を開いた日乾上人の墓である開山廟、そして二代目吉野太夫の墓も境内にあります。

茶室も複数点在しており、茶室「聚楽亭」があります。また、二代目吉野太夫を偲んで夫の灰屋紹益が寄進したとされる茶室「遺芳庵」は特に有名です。この茶室には、吉野太夫が好んだとされる円窓があり、「吉野窓」と呼ばれています。この窓は完全な円ではなく、一番下の部分が切り取られている独特の形状をしています。境内には美しい池も配されています。

信仰に関する施設としては、鎮守社である常富大菩薩堂があり、能勢妙見山で修行を積んで常富大菩薩となったとされる白狐が祀られています。その他、宝蔵、鬼子母尊神堂、そして妙法龍神堂などがあります。

境内のユニークな見どころとして、帯塚があります。これは1969年（昭和44年）に伊豆蔵福治郎氏が発起人となり建立されたもので、徳島県の吉野川から運ばれた自然石を用いて作られています。日本で唯一、帯を供養するための塚であり、鷹峰三山を表現しているとされています。この帯塚と共に、境内の庭園は、造園家として知られる中根金作氏によって作庭されました。

常照寺の入口には、山門（吉野門）が建っています。これは寛永5年（1628年）に二代目吉野太夫によって寄進された、鮮やかな朱塗りの門です。吉野太夫は、下京区にある蓮久寺にも同様の朱塗りの山門を寄進したことで知られています。

常照寺は、本阿弥光悦による鷹峯の開拓、日乾上人による寺院としての確立、そして二代目吉野太夫との繋がりなど、京都の歴史と文化に深く関わる寺院であり、その静寂な境内で豊かな歴史と美しい自然を感じることができます。

交通アクセス

京都市営バス「源光庵前」バス停より徒歩圏内です。

周辺

周辺には、源光庵や光悦寺といった他の名刹があり、合わせて散策を楽しむことができます。

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