常盤御前

常盤御前：謎に包まれた義経の母

常盤御前（ときわごぜん、保延4年（1138年） - 没年不詳）は、平安時代末期の女性であり、源義朝の側室として知られています。源義経（牛若丸）の母として有名ですが、その生涯は歴史的史料が少なく、謎に包まれています。

常盤御前の生涯：史実と物語

『平家物語』などの軍記物語や『尊卑分脈』によると、常盤御前は近衛天皇の中宮・九条院の雑仕女であったとされています。両親の身元は不明です。源義朝との間に、阿野全成（今若）、義円（乙若）、源義経（牛若）の三男をもうけました。その後、一条長成と再婚し、一条能成と一女をもうけています。

いくつかの軍記物語では、平清盛の妾となり一女を産んだとされていますが、これは史実として確認されていません。また、義経の同腹の弟と名乗る人物が戦に出たという記述もありますが、これも史実の確認は困難です。

義朝死後から一条長成との結婚までの期間については、史料が乏しく、詳細は不明です。一条長成との間に生まれた一条能成は、『尊卑分脈』『公卿補任』などの史料で確認できます。

義経が頼朝と対立し、追われる身となると、義経の異父弟である能成も同行したと『玉葉』に記されています。文治2年（1186年）、常盤御前は義経の異父妹とともに鎌倉方に捕らえられたとされますが、『玉葉』や『吾妻鏡』の記録からは、釈放された可能性が高いと推測されています。これが常盤御前に関する最後の確実な記録となります。

その後については、侍女と共に義経を追いかけたという伝承があり、各地に常盤御前の墓とされる場所が残されています。地名や老木の由来として常盤御前の名前が伝えられている例もあります。

物語上の常盤御前：史実との乖離

『平治物語』や『義経記』などの物語では、常盤御前は、源義朝の死後、子供たちと共に逃亡し、九条院にその後、平清盛に身を寄せ、母の助命を嘆願したという話が描かれています。この物語では、常盤御前の美貌と嘆願が清盛を動かして、子供たちの命を救ったとされています。

しかし、これらの物語は史実とは異なる部分が多く、特に平清盛との関係については、史料による裏付けがありません。室町時代以降の物語では、常盤御前が清盛と関係を持つことで子供たちの助命がかなったという描写が見られますが、鎌倉時代に成立した『平治物語』古態本には、そのような記述はありません。

平治の乱における義朝の立場や、清盛の権力などを考慮すると、常盤御前と清盛の関係が子供たちの助命に大きく影響したとは考えにくいという見解が一般的です。物語上の常盤御前の描写は、後の文学や芸術に大きな影響を与えたものの、史実とは異なる部分が多いことを認識する必要があります。

まとめ

常盤御前は、源義経の母として有名ですが、その生涯の多くは不明な点が多く、史実と物語上の描写が混在しています。史料に基づいて事実を検証し、物語上の常盤御前のイメージとの違いを理解することが重要です。様々な伝承や物語を通して、常盤御前の存在は人々の想像力を掻き立て、歴史上の人物としてだけでなく、物語の主人公としても生き続けています。

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