幕末の四大人斬り

幕末の四大人斬り

幕末の動乱期、特に政治の中心地であった京都では、尊王攘夷派による過激な活動が頻発しました。その中でも、特定の人物を「天誅」と称して暗殺する活動に深く関わり、「人斬り」という異名で恐れられた四人の志士がいました。彼らは後に「幕末の四大人斬り」と総称されるようになります。この四人とは、薩摩藩の田中新兵衛と中村半次郎（後の桐野利秋）、肥後藩の河上彦斎、そして土佐藩の岡田以蔵です。彼らの活動は当時の都の人々を恐怖に陥れ、政局にも大きな影響を与えました。

四人の「人斬り」たち

田中新兵衛（たなか しんべえ）

天保3年（1832年）生まれ、文久3年（1863年）没。薩摩藩出身。文久2年（1862年）には、時の権力者であった島田正辰を暗殺。この事件は、その後の「天誅」と呼ばれる暗殺活動の端緒となったとされています。多くの暗殺に関与したと見られ、「人斬り新兵衛」として恐れられました。朔平門外の変における姉小路公知暗殺の嫌疑で捕縛されますが、取り調べ中に突然自刃しました。享年31という短い生涯でした。

河上彦斎（かわかみ げんさい）

天保5年（1834年）生まれ、明治4年（1872年）没。肥後藩出身。元治元年（1864年）には、開国論を唱えていた兵学者・佐久間象山を暗殺するなど、大胆な行動で知られ、「人斬り彦斎」と呼ばれました。維新後、高田源兵衛と改名しますが、二卿事件への関与や新政府高官・広沢真臣暗殺の嫌疑をかけられ、捕縛の末に斬首刑に処されました。享年37。

岡田以蔵（おかだ いぞう）

天保9年（1838年）生まれ、慶応元年（1865年）没。土佐藩出身。佐幕派の人物を中心に数多くの暗殺を実行しました。特に、吉田東洋暗殺犯の探索のため上京した土佐藩士・井上佐市郎を惨殺したことは有名で、「人斬り以蔵」の異名を取りました。京都で捕縛された後、故郷の土佐へ送還され、厳しい拷問によって自身の関与した一連の「天誅」を自白。その後、打ち首に処され、獄門に懸けられました。享年27という最も短い生涯でした。

中村半次郎（なかむら はんじろう）／桐野利秋（きりの としあき）

天保9年（1839年）生まれ、明治10年（1877年）没。薩摩藩出身。多くの「天誅」に関わり、「人斬り半次郎」としてその名を知られました。慶応3年（1867年）には、自らの師でもあった兵学者・赤松小三郎を暗殺しています。明治維新後は桐野利秋と改名し、大日本帝国陸軍の少将にまで昇進しました。しかし、西郷隆盛が主導した西南戦争では反乱軍側に加わり、政府軍との戦闘の中で戦死しました。享年38。

その末路と後世への影響

幕末の四大人斬りと呼ばれた彼らは、いずれも時代の波に翻弄され、悲劇的な最期を遂げました。田中新兵衛と岡田以蔵は維新を見ることなく処刑され、河上彦斎も維新後に刑死しています。唯一、中村半次郎（桐野利秋）だけが明治新政府において高官の地位を得ましたが、最終的には反乱軍として戦死するという壮絶な最期でした。彼らの過激な活動は、幕末の混乱を象徴する出来事であり、その人物像や生き様は後世、様々なフィクション作品の題材として描かれ、今なお多くの人々の関心を集めています。

彼らの行動の評価は現代でも分かれますが、時代の激流の中で自らの信念に基づき命を懸けて行動した姿は、幕末という時代を理解する上で避けて通れない存在と言えるでしょう。彼らの愛刀が盗難に遭う事件を扱った現代の漫画作品や、彼らが主人公の敵として登場するゲーム作品など、その名は現代日本の文化の中にも息づいています。

もう一度検索