平和橋 (広島市)

平和橋：歴史と現代が織りなす広島の象徴

広島県広島市、猿猴川に架かる平和橋は、単なる道路橋ではありません。その歴史は、明治時代、軍用線として建設された旧国鉄宇品線の鉄道橋「大洲口橋梁」にまで遡ります。太平洋戦争の激戦と復興、そして現代都市の再開発という、広島の歴史そのものを映し出す、象徴的な存在なのです。

明治から現代へ：激動の時代を生き抜いた橋

1894年、山陽鉄道が陸軍省の委託を受け、広島駅から宇品港（現在の広島港）へ向かう軍用線を建設しました。その際に猿猴川に架けられたのが大洲口橋梁です。当初は仮設橋でしたが、1897年には旅客営業開始に伴い、本格的な鉄橋に架け替えられました。その後、大正時代には上流に大正橋、昭和初期には下流に東大橋が架かり、猿猴川周辺の交通網は徐々に整備されていきました。

1945年8月6日、広島に原爆が投下されました。爆心地から約2.52km離れた大洲口橋梁は奇跡的に被災を免れ、多くの避難民が比治山から大洲地区へと逃れるための生命線となりました。原爆投下後も、宇品線は負傷者の輸送などに利用され、大洲口橋梁は広島の復興に貢献したのです。

しかし、1945年9月17日、枕崎台風の大雨により、大洲口橋梁の一部が流失。十数メートル下流に新たな橋梁が架けられ、宇品線の軌道は移設されました。旧橋梁の橋脚を利用して、幅1.5mの人道橋「平和橋」が1948年に架けられました。この人道橋は、その後も地元住民の生活道路として長く親しまれてきました。

「ひろしま2045」事業と新たな平和橋

1986年、旧国鉄宇品線が廃線となり、軌道は撤去されました。しかし、平和橋は残されました。そして、1995年の被爆50周年を機に開始された「ひろしま2045 平和と創造のまち」事業において、この人道橋は、建築家の岸和郎氏によって設計された美しい新橋へと生まれ変わることになりました。

2002年6月17日、現在の平和橋が開通しました。岸和郎氏のデザインは、橋中間部の張り出したテラスや、ウッドデッキ風の歩道など、特徴的なものです。単なる交通インフラとしてだけでなく、人々が憩い、集う場所として、広島の街に新たな魅力を加えています。人道橋に併設する形で建設され、その後、旧人道橋は撤去されました。

マツダスタジアムへのアクセスと都市機能

平和橋は、広島市道段原蟹屋線に位置し、北詰（左岸詰）にはマツダスタジアムがあります。プロ野球開催時には多くの観客で賑わい、スタジアムと市中心部を結ぶシャトルバスもこの橋を通ります。周辺には、比治山という自然豊かなエリアが広がり、広島の都市と自然を繋ぐ重要な役割を担っています。

平和への願いを込めた橋

平和橋は、単なる道路橋としてだけでなく、戦争と復興、そして平和への願いを象徴する存在です。その歴史とデザインは、広島市民の記憶と未来への希望を繋ぐ、かけがえのないものとなっています。橋の設計、構造、歴史的背景を理解することで、この橋が持つ深い意味をより一層感じ取ることができるでしょう。

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