平曲

平曲（へいきょく）

平曲は、琵琶の音色に合わせて語られる日本の伝統音楽の一種で、特に『平家物語』を叙事詩的に伝える演奏スタイルです。盲目の琵琶法師がこの音楽を奏でる中で、物語を語り継いできました。

概要

平曲は、12世紀末頃に東国出身の盲目の僧生仏によって始められたとされています。彼らは琵琶を演奏しながら、詩的な内容を節をつけて歌い上げました。この「語り」は、叙事詩という特性から「歌う」という表現を避け、「語る」とされています。平曲に用いられる琵琶は特に平家琵琶と呼ばれ、一般的には小型の楽器が使われます。

平曲は、鎌倉時代中期に成立し、盲僧琵琶の系譜に連なる芸能です。この音楽スタイルは、声明の中の語り部分「講式」から大きな影響を受けています。また、平曲の源流には様々な説があり、鎌倉時代の天台宗による民衆教化のための唱導芸術とも言われています。

『平家物語』には多くの演目が後世の音楽や舞台芸術に引き継がれ、特に能の修羅物には平曲に取材した作品が多いとされています。このため、平曲は単なる娯楽ではなく、歴史的な意味合いを持つ芸術であることも特徴の一つです。

平曲の歴史的変遷

平曲の流派は当初、八坂流と一方流の2つが存在しましたが、八坂流は早くに衰退し、一方流は江戸時代になり前田流と波多野流に分かれました。前田流は繁栄し、安永5年には名人の荻野検校が『平家正節』を完成させ、そこから前田流の定本となりました。しかし明治維新後、盲官制度の廃止によって平曲の伝承者は減少し、平曲は危機的状況に陥りました。

明治末には、平曲の保存活動を行った館山漸之進が現れましたが、昭和期に入ると、その伝承者は数名に減少してしまいました。1990年時点でも前田流の伝承者はわずか数名であり、2008年には三品検校の弟子が残るのみという状況でした。平曲は1955年に国の無形文化財に指定され、その保存活動が続けられています。

平曲の音楽的特性

平曲は「曲節」と呼ばれる旋律の組み合わせによって構成されています。音楽的には、旋律を伴わない「語り句」と、旋律を伴う「引き句」があり、特に「引き句」はさらにいくつかのカテゴリに分類されます。

「口説」や「拾」、「節」などがあり、それぞれが異なる旋律を持ち、曲の展開に応じて使い分けられます。これらの特徴により、平曲は物語の情景や感情を豊かに表現することが可能となっています。

言語学的視点

平曲は、言語学的な観点からも重要な資料とされています。中世末から近世にかけての日本語のアクセントや発音を知るための貴重な音声資料としても評価されています。これらの研究が進むことで、平曲の文化的意義はさらに広がるでしょう。

参考文献

• - 吉川英史「語りもの」
• - 薦田治子「平曲の旋律-〈卒塔婆流〉」
• - 金田一春彦「平曲考」
• - 金田一春彦「平家正節」

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