語りもの

語りもの（かたりもの）

語りものは、日本の中世に始まった口承文芸および音楽の一ジャンルで、特に物語性に重きを置いた演目や表現として知られています。日本の伝統音楽、特に邦楽の分野で語りものは重要な位置を占めています。声楽は邦楽において大きな部分を占めており、一般的に「歌いもの」と「語りもの」に二分されます。「歌いもの」は、旋律やリズムなど音楽的要素が重視される楽曲のことを指します。一方で語りものは、物語が描かれた詞章に重きを置いた楽曲であり、語る内容が価値の中心となります。

語りものの歴史的背景

古代の「語り」は、言葉を用いたコミュニケーションを意味していましたが、鎌倉時代以降には、楽器と節回しを持つ声の表現が融合するようになりました。特に平安時代に成立した軍記物語は、その後の「語りもの」として庶民の間で広く楽しまれ、鎌倉時代には『平家物語』が例として挙げられます。この作品のテキストは琵琶法師による平曲に合わせて語られ、語りの形式が多様化しました。

このように「語りもの」という言葉は多義的です。例えば「平曲は語りものである」という際の「語りもの」は邦楽における特定のジャンルを指しますが、「那須与一」や「横笛」での語りものは特定の演目を指します。また、文芸の面では、叙事詩全般を指して「語りもの」と呼ばれることもあります。特に戦記文学などがこの対象です。この場合、台本のように黙読することでも「語りもの」として扱われます。音楽においては、「語りもの音楽」として区別され、特に清音で語られる物語が含まれます。

語りもの音楽の特徴

語りもの音楽にはいくつかの特徴があり、一般的には拍子に縛られず、自由なリズムや音階から外れた音を使うことがあります。テンポは複雑で、リズムや旋律の繰り返しも少ないという特性があります。具体的には、琵琶系の平曲や盲僧琵琶はこのジャンルに含まれ、浄瑠璃系には古浄瑠璃や義太夫節などがあります。特に、説経や祭文などは、宗教から派生したものが多く含まれています。

祭文語りは修験道の宗教儀礼に基づき、江戸時代に三味線と結びついたことで「歌祭文」と呼ばれる形に進化しました。一方、盲僧琵琶は、琵琶を使った物語の語りで、これが後の薩摩琵琶や筑前琵琶の基盤となりました。これらの中でも最も古い語りものは「講式」とされ、平安時代中期から盛んに行われました。

語りものの文芸

「音楽でない語りもの」としては、唱導が中世に広がり、その後は講談などの新たな芸能が生まれました。唱導は仏教の教義を語り、多くの人々を導く役目を果たしていました。講談は戦国時代に生まれ、多くは江戸時代に全盛期を迎えました。特に著名な作品は大岡政談などで、多くのストーリーが人々に語り継がれています。

東西比較と影響

語りものは日本独自の文化ですが、フランス中世文学との比較も行われており、特に佐藤輝夫氏の研究により『平家物語』と『ローランの歌』との相違点や共通点が指摘されています。これらの研究は、日本の語りものが持つ特性とその背景をより深く理解する手助けとなっています。

語りものの分野は、日本文化の豊かさを示す重要な要素であり、伝統的な物語の語りが今なお受け継がれ、多くの人に楽しまれています。

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