平林盛人:太平洋戦争開戦を予見した軍人、そして政治家
平林盛人(1887-1969)は、日本の陸軍
軍人、
政治家として知られています。陸軍士官学校、
陸軍大学校を卒業後、
参謀本部で勤務。米国研究の専門家として、東京外国語学校で英語を学び、欧米視察も経験するなど、国際的な視野を養いました。
その後、
歩兵連隊長、師団
参謀長、満州国軍政部最高顧問、憲兵司令官などを歴任。
1939年には陸軍
中将に昇進し、第17師団長に就任しました。しかし、
東條英機首相との不仲、そして反戦的な立場から、
1943年に
予備役に編入されます。
平林の経歴における特筆すべき点は、太平洋戦争開戦への批判です。
1941年12月、第17師団長として部下を前に、開戦の危険性を警告する演説を行いました。その内容は、日本の戦力では米英に勝利の見込みがなく、泥沼化する中国戦線を抱えたまま開戦することは愚策であるというものでした。さらに、
東條英機首相の能力を批判し、その政策を痛烈に非難しています。
この演説の内容は、約70年間秘密にされていましたが、
2009年に公表され、大きな反響を呼びました。開戦直前に「聖戦」を批判した
軍人の証言は、極めて異例であり、歴史的にも貴重な記録といえます。
戦後の平林は、
公職追放を経て、
電線工場の工場長や
穂高町教育委員などを務めました。
1954年には
穂高町長に当選し、
1962年まで務めました。町長在任中は、地元出身の彫刻家、荻原碌山を記念した「
碌山美術館」の建設に尽力し、初代館長も務めました。
平林の生涯は、
軍人としてのキャリア、
政治家としての活動、そして戦争への批判という、複数の側面から成り立っています。
東條英機との対立、太平洋戦争開戦への予見と批判、
戦後の地域社会への貢献など、彼の行動は、激動の時代を生きた
軍人の複雑な姿を私たちに示しています。
また、平林が
歩兵第8連隊長であった時代に、
大阪市住之江区の陸軍管轄地の払い下げに携わり、その地が「平林」という地名になったという説もあります。これは、彼の
軍人としての活動の痕跡として、地域に今も残る物語となっています。
彼の軍歴における栄典や勲章、そして家族についても記録が残されています。三男の伊三郎氏も
穂高町長、初代
安曇野市長を務めており、平林家の歴史は、地域社会に深く根付いていることを示しています。
平林盛人の生涯は、単なる
軍人の経歴を超え、太平洋戦争という歴史的転換期における個人の葛藤や選択、そして
戦後の復興への貢献といった、多様な要素を含む複雑な物語として捉えることができます。彼の行動や発言は、現代においても、戦争と平和、リーダーシップと責任といった普遍的なテーマを考える上で、重要な示唆を与えてくれます。彼の歴史的役割と遺産は、これからも研究と議論の対象として残り続けるでしょう。