平民主義

平民主義（へいみんしゅぎ）とは

平民主義、または平民的欧化主義とは、明治時代のジャーナリストであり思想家であった徳富蘇峰によって提唱された思想です。これは、当時の日本が直面していた近代化の課題に対し、一般国民（平民）の立場からの西洋文明の受容を重視するべきであるという主張でした。

平民主義の成立

徳富蘇峰は、熊本県で大江義塾を開き、青年の教育に尽力していました。その中で、イギリスの自由主義思想家であるリチャード・コブデンやジョン・ブライトらの影響を受け、また、馬場辰猪などの日本の思想家からも触発され、平民主義の思想を形成していきました。

蘇峰の平民主義は、「武備の機関」よりも「生産の機関」を重視し、自由な社会生活と経済活動を基盤としながら、個人の人権尊重と平等主義が実現される社会を目指すものでした。これは、当時の政府や軍備拡張を主張する人々への批判であり、自由主義、平等主義、平和主義をその根本に置いていました。

平民主義の展開

蘇峰は、自費出版した『第十九世紀日本の青年及其教育』や『将来之日本』で平民主義を詳細に展開しました。これらの著作は、当時の日本社会が抱えていた富国強兵、鹿鳴館、徴兵制、国会開設といった問題に対し、警鐘を鳴らすものであり、多くの人々の注目を集めました。

特に、『将来之日本』は、その華麗な文体と内容で多くの若者を魅了し、蘇峰は一躍論壇の注目人物となりました。その後、彼は東京に活動拠点を移し、言論活動を本格化させていきます。

民友社と『国民之友』

1887年、蘇峰は東京で言論団体である民友社を設立し、月刊誌『国民之友』を創刊しました。『国民之友』は、アメリカの週刊誌『ネーション』に影響を受けたものであり、弟の徳冨蘆花や山路愛山、竹越与三郎、国木田独歩など、多くの才能ある人々が集まりました。

『国民之友』は、日本の近代化の必要性を説きつつ、政府が推進する欧化主義を「貴族的欧化主義」と批判しました。また、政教社の掲げる国粋主義に対しても、国民の自由と生活向上には「下からの西洋化」が必要であるという平民的急進主義を主張し、当時の言論界を二分するほどの勢力となりました。

平民主義の変容

しかし、日清戦争後の三国干渉を機に、蘇峰の思想は大きく変化します。彼は、それまで批判していた国家主義や国権主義的な言論を積極的に展開するようになり、平民主義の思想は次第に影を潜めていきました。

平民主義の影響

新渡戸稲造も平民主義を唱えましたが、蘇峰の提唱した平民主義ほど広まることはありませんでした。しかし、蘇峰の平民主義は、当時の日本の社会や思想に大きな影響を与え、その後の日本の近代化のあり方を考える上で重要な視点を提供しました。


平民主義は、単なる西洋化ではなく、国民が主体となって社会を良くしていくという考え方を提示した点で、非常に重要な思想であったといえるでしょう。

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