平部嶠南

平部嶠南（ひらべ きょうなん）：激動の時代を生きた飫肥藩の要人

平部嶠南は、文化12年（1815年）に現在の宮崎県宮崎市に生まれ、明治23年（1890年）に76歳で亡くなった、江戸時代末期から明治時代にかけて活躍した政治家です。飫肥藩の家老などを歴任し、藩政に深く関わりました。その生涯は、激動の時代を背景に、藩政への貢献と学問への情熱、そして家族との絆に彩られています。

生い立ちと学問

平部嶠南は、小田源五右衛門の娘と和田重寛の子として生まれました。後に平部俊寧の養子となり、平部家を継承します。幼少期から学問に励み、安井滄州・安井息軒父子に儒学を学びました。その後、江戸に留学し、古賀侗庵に師事してさらに学識を深めました。

藩政への貢献

帰国後、平部嶠南は飫肥藩の藩校である振徳堂で教鞭を執り始めます。句読師から教授へと昇進し、藩士の教育に尽力しました。その後、江戸留守居副役、相談役、川除奉行、山林奉行、大坂留守居などを歴任し、藩政の中枢を担いました。一時隠居したものの、文久3年（1863年）には再び藩に召し出され、伊東祐帰の教育係や用人、番頭、中老などを経て、慶応3年（1867年）には家老に就任しました。明治2年（1869年）には飫肥藩大参事となり、藩政改革に尽力しました。

明治維新後の活動

廃藩置県後、平部嶠南は明治政府に出仕し、明治8年（1875年）には宮崎県地誌編集係に任命されます。県内各地を巡り、資料収集・整理に奔走し、その成果は後に『日向地誌』として結実します。この地誌は、平部嶠南の卓越した調査能力と、郷土への深い愛情を示すものでした。

西南戦争と家族

明治10年（1877年）の西南戦争では、孫の平部俊彦や義理の甥である長倉訒、小倉処平が薩摩軍に参加しました。平部俊彦は戦死し、小倉処平は自害するという悲劇に見舞われました。平部嶠南自身は戦乱に直接関わることはありませんでしたが、家族の悲劇は彼の心に深く刻まれたことでしょう。

晩年と遺産

明治17年（1884年）に『日向地誌』を完成させ、翌年にはその功績により編集功労手当を受けました。平部嶠南は、その生涯を通して、藩政への貢献、教育への情熱、そして故郷の歴史と文化の記録に尽力しました。彼が19歳から66歳までの47年間にわたって書き続けた日誌『六鄰荘日誌』は、当時の社会情勢や人々の生活を知る上で貴重な資料となっています。

平部嶠南は、激動の時代を生き抜き、その足跡は今もなお、郷土の人々に語り継がれています。彼の残した著作や日誌は、歴史研究においても重要な資料として活用されています。

著作

『日向地誌』 （青潮社、1978年）
『嶠南日誌』全3巻 （宮崎県立図書館、1990年 - 1993年）

参考文献

末永和孝『宿志の人平部嶠南』 （鉱脈社、2006年）
大石慎三郎他監修『江戸時代 人づくり風土記45 ふるさとの人と知恵 宮崎』（農山漁村文化協会）
「三百藩家臣人名事典 7」（新人物往来社）
「飫肥城歴史資料館紀要・読み物編第2集　飫肥西郷と呼ばれた男　小倉処平」（平成29年（2017年）、飫肥城下保存会）

もう一度検索