安井息軒

安井息軒：近代漢学の礎を築いた江戸時代の儒学者

安井息軒（やすい そっけん、1799年2月5日 - 1876年9月23日）は、江戸時代後期の著名な儒学者です。宮崎県宮崎市出身で、飫肥藩士として仕えながら、学問に励み、多くの弟子を育成しました。その功績は、江戸時代の儒学の集大成であり、近代漢学の礎を築いたと高く評価されています。

幼少期と教育

息軒は、飫肥藩士安井滄洲の次男として生まれました。幼い頃は天然痘にかかり、顔に障害が残りました。しかし、学者の父の影響を受け、幼い頃から学問に強い関心を抱き、勉学に励みました。21歳からは、大坂の篠崎小竹、江戸の昌平坂学問所の古賀侗庵、松崎慊堂といった名だたる学者に師事し、研鑽を積みました。当時、塩谷宕陰と並び称されるほどの才能の持ち主として知られていました。

藩校での教育と藩政への関与

文政10年（1827年）、飫肥藩主伊東祐相の招きにより郷里に戻った息軒は、郷校「明教堂」と藩校「振徳堂」で教鞭を執り、藩政にも参与するようになりました。森鷗外の小説『安井夫人』のモデルとなった妻、佐代と結婚したのもこの頃です。しかし、息軒が進める藩政改革は保守派の反発を招き、天保8年（1837年）、江戸へ出て芝増上寺の僧寮に身を寄せました。そこで、礼楽、兵制、刑法についてさらに深く研究を深めました。

私塾「三計塾」の設立と幕府への仕官

天保9年（1838年）、息軒は家族と共に江戸に移住し、私塾「三計塾」を開設しました。「一日の計は朝にあり。一年の計は春にあり。一生の計は少壮の時にあり。」という有名な言葉は、この三計塾の設立理念を表しています。文久2年（1862年）には幕府に招かれ、昌平坂学問所の儒官となり、禄二百俵を賜りました。

時勢への関与と晩年

息軒は、塩谷宕陰、木下犀潭、芳野金陵らと親交を深め、「文会」を主宰しました。この「文会」には藤田東湖ら新進気鋭の学者も参加し、時勢を論じる場にもなっていきました。黒船来航後の混乱の中で、息軒は水戸斉昭に意見を求められ、『海防私議』『靖海問答』などを上書しましたが、安政の大獄により斉昭が失脚したため、その意見は採用されませんでした。文久2年には、塩谷宕陰、芳野金陵らと共に幕府儒官を拝命し、「文久三博士」と呼ばれました。戊辰戦争中は埼玉県川口市に疎開し、『北潜日抄』を著しました。明治維新後も塾生たちの教育に尽力しましたが、明治5年の学制発布により塾生は激減し、高齢と視力の衰えにより、晩年は四肢不自由となりました。それでも持ち前の不屈の精神で『睡余漫筆』を書き続けました。明治9年（1876年）、77歳で生涯を終えました。

弟子と業績

息軒の門下からは、明治時代に知事、大臣などの高官になった者や、軍人、学者などが数多く輩出されました。その数は延べ2000名にも上ると言われています。主な著書には、『論語集説』、『左伝輯釈』、『管子纂詁』、『海防私議』、『靖海問答』、『北潜日抄』、『睡余漫筆』などがあります。これらの著作は、後世の学問に多大な影響を与えました。

史跡と関連施設

息軒の生家は宮崎市清武町に現存し、「安井息軒旧宅」として国の史跡に指定されています。旧宅には息軒が植えたとされる梅の木があり、「安井息軒梅まつり」が毎年開催されています。また、旧宅の向かいには「きよたけ歴史館」があり、息軒に関する資料が展示されています。宮崎市清武総合運動公園内には、「SOKKENスタジアム」という野球場があり、プロ野球チームのキャンプ地としても利用されています。

安井息軒は、学問への飽くなき探究心と、多くの弟子を育成した教育者としての顔を持ち合わせていました。彼の功績は、近代日本の発展に大きく貢献したと言えるでしょう。彼の生涯と業績は、現代においても学ぶべき多くのことを残していると言えるでしょう。

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