平野甲賀

平野甲賀：時代を彩ったブックデザイナー

平野甲賀（ひらの こうが、1938年7月5日 - 2021年3月22日）は、日本のブックデザイナーとして、その独創的な装幀で多くの人々に愛されました。彼のデザインは、単に本を装うだけでなく、時代の精神や文化を反映したものでした。

生涯と足跡

1938年、平野甲賀は朝鮮の京城（現在のソウル）で生まれました。終戦後、静岡へ移住。武蔵野美術学校（現在の武蔵野美術大学）でデザインを学び、在学中に日宣美展で特賞を受賞し、早くからその才能を発揮しました。

卒業後、髙島屋の宣伝部に入社しますが、1963年にフリーランスとなり、本格的にブックデザインの世界へ足を踏み入れます。特に、晶文社の書籍の装幀をほぼ全て手がけたことは、彼のキャリアにおいて重要な出来事でした。サイをモチーフにした晶文社のロゴマークも彼のデザインによるもので、カウンターカルチャーの旗手としての晶文社のスタイルを確立しました。

1960年代半ばからは、晶文社の編集者・津野海太郎と共に演劇活動にも参加し、六月劇場や劇団黒テントなど、アングラ演劇の舞台美術やポスターデザインを数多く手がけました。1973年からは、植草甚一が編集する雑誌「ワンダーランド」や「宝島」のアートディレクターも務め、その才能を多岐にわたって発揮しました。

1984年には、木下順二著『本郷』の装幀で講談社出版文化賞・ブックデザイン賞を受賞。高橋悠治のバンド水牛楽団にも関わるなど、音楽分野にも足跡を残しています。

2014年には東日本大震災をきっかけに、妻と共に香川県の小豆島へ移住。晩年は高松市で過ごし、2021年3月22日に肺炎のため82歳で逝去されました。生涯に手がけた装幀は7,000冊を超えると言われています。

デザインの特徴と影響

平野甲賀のデザインは、独特の文字の表現が特徴的です。手書き文字をベースにしたその書体は「コウガグロテスク」と名付けられ、フォントとしても利用されています。彼の装幀は、本の顔として、読者の興味を引きつけ、内容への期待感を高めるものでした。

晶文社の書籍をはじめ、数々の装幀を通して、彼は日本の出版文化に大きな影響を与えました。アングラ演劇のポスターや舞台美術もまた、当時の演劇シーンに独自の視覚的表現をもたらしました。

著書

平野甲賀は、自身のデザイン哲学や制作過程について、数多くの著書を著しています。

『平野甲賀 装丁の本』（リブロポート、1985年）
『平野甲賀〔装丁〕術・好きな本のかたち』（晶文社、1986年）
『文字の力』（晶文社、1994年）
『もじを描く』（編集グループSURE、2006年）
『僕の描き文字』（みすず書房、2007年）
『ブックデザインの構想 チェコのイラストレーションから、チラシ・描き文字まで』 (黒川創共著、編集グループSURE、2008年)

これらの著書を通して、彼のデザインに対する情熱や考え方を垣間見ることができます。

平野甲賀は、その生涯を通して、日本のブックデザイン界に多大な貢献をしました。彼の作品は、今もなお多くの人々に愛され、その影響力は色褪せることはありません。

もう一度検索