建造物等損壊罪

建造物等損壊罪：他人の建造物や艦船を損壊した場合の罪

建造物等損壊罪とは、他人の建造物または艦船を損壊した者を処罰する犯罪です。刑法第260条に規定されており、建造物や艦船の所有者や占有者の告訴がなくても処罰される、親告罪ではない点が重要です。

構成要件

この罪が成立するためには、以下の構成要件を満たす必要があります。

1. 行為の客体: 「他人の建造物または艦船」が対象となります。建造物とは、一般的に家屋やこれに類似する建築物を指しますが、取り外しが可能なものについては、その容易性や建造物との関係性によって、建造物等損壊罪または器物損壊罪のいずれが成立するかが争われることがあります。判例では、屋根瓦や玄関ドアなども建造物等損壊罪の客体として認められたケースがあります。艦船については、その定義は明確であり、船舶を指します。

2. 行為の内容: 「損壊」行為が必要です。これは、建造物または艦船の効用を害する一切の行為を指します。物理的な破壊だけでなく、心理的に使用不能にする行為も含まれます。例えば、ビラを大量に貼り付けたり、ペンキで落書きをする行為なども、建造物の効用を害するとして、損壊に該当すると判断される場合があります。判例では、建物の美観を著しく損なう行為も損壊として認められています。

3. 違法性と責任能力: 通常の犯罪と同様に、違法性と責任能力が必要です。正当防衛や緊急避難といった阻却事由がないことが前提となります。

判例

判例では、損壊の程度や行為の態様について様々な判断が示されています。

玄関ドアの取り外し：適切な工具を使えば損壊せずに取り外せる玄関ドアであっても、外界と遮断し、防犯、防風、防音などの重要な役割を果たすことから、建造物等損壊罪の客体として認められる場合があります。
ビラの大量貼付：多数の者と共謀して、多数のビラを建物の壁などに貼り付ける行為は、建物の効用を減損させるとして損壊に該当すると判断されています。
* ペンキによる落書き：公園の公衆トイレにペンキで落書きをする行為は、建物の外観や美観を著しく損なうため、損壊に該当します。

これらの判例から分かるように、損壊の程度は厳格に定義されているわけではなく、個々の事案における状況証拠を総合的に判断する必要があります。

法定刑

建造物等損壊罪の法定刑は、5年以下の懲役です。死傷者が出た場合は、傷害罪よりも重い刑が科せられる可能性があります。

特別法犯：運転過失建造物損壊罪

車両等の運転中に過失で建造物を損壊した場合、運転過失建造物損壊罪が成立します。工事車両が工事作業中に過失で損壊した場合には、本罪は成立しません。また、道路交通に関連する犯罪であるため、「艦船」は客体として含まれません。

器物損壊罪との違い

建造物等損壊罪と器物損壊罪は、客体が異なる点が主な違いです。器物損壊罪は、建造物以外の物を対象とします。また、建造物等損壊罪は親告罪ではないのに対し、器物損壊罪は親告罪である場合があります。

まとめ

建造物等損壊罪は、他人の建造物や艦船を損壊する行為を処罰する犯罪です。損壊の程度や行為の態様によって、器物損壊罪と区別され、また親告罪ではないため、被害者からの告訴がなくても公訴が提起される可能性があります。本罪の成立要件や判例を理解し、犯罪に巻き込まれないように注意することが重要です。

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