弋謙

弋謙（よくけん）は、明代に活躍した官僚であり、その生没年は明らかになっていない。本貫は代州である。

生涯

1411年（永楽9年）、科挙に合格し進士となった弋謙は、監察御史に任じられ、その職務を遂行した。江西巡按として派遣された際、永楽帝の意にそぐわない意見を上奏したため、峡山知県へと左遷されることとなった。さらに、その後の事件で罪を問われ免官となり、故郷へと帰ることとなった。

1424年（永楽22年）11月、弋謙は北京に呼び戻され、大理寺右少卿に任じられた。彼は時の政治に対して率直な意見を述べ、その多くが洪熙帝に採用された。翌1425年（洪熙元年）2月には、五事について言上したが、その内容は過激であったため、洪熙帝の機嫌を損ねてしまった。呂震、呉中、呉廷用、虞謙らは、弋謙を誣告の罪で弾劾し、都御史の劉観も他の御史たちと共に彼を糾弾した。この事態を受けて、洪熙帝は楊士奇らを召し出して意見を求めたところ、楊士奇は弋謙を弁護したため、弋謙は処罰を免れた。

当時、宦官が四川で木材の伐採を監督し、その過程で収奪を尽くしていた。洪熙帝は弋謙の清廉さと実直さを評価し、彼を四川に派遣することを決めた。弋謙は副都御史に抜擢され、四川に赴任し、木材伐採のための過酷な労役を停止させた。その手腕は高く評価された。

宣徳帝の時代初期、交趾右布政使であった戚遜が不正に財産を蓄えた罪で降格されると、弋謙がその後任として布政使に任命され、交趾へと赴任した。しかし、1428年（宣徳3年）、王通が交趾を放棄した責任を問われ、獄に繋がれると、弋謙もまた連座し、死刑を宣告された。

正統帝の治世初年、弋謙は赦免され、一般民としての生活を送ることになった。1449年（正統14年）、土木の変によって英宗がオイラトに連行されるという事態が発生すると、弋謙は官位を持たない身でありながら北京の宮殿に駆けつけ、王通、寧懋、阮遷ら13人を任用するよう進言した。しかし、朝廷内の議論では、王通が石亨の副官であり、弋謙がかつて交趾にいた際に王通の部下であったことから、この推薦は私的な関係に基づくものと見なされ、採用されることはなかった。

1451年（景泰2年）、弋謙は再び上京し、王通らを推薦する上奏を行ったが、これもまた聞き入れられることはなかった。失望した弋謙は故郷に帰り、程なくしてこの世を去った。

脚注

本稿は、以下の文献を参照して作成された。

* 『明史』巻164 列伝第52

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