楊士奇

明朝の重鎮、楊士奇

楊士奇（よう しき、1365年 - 1444年）は、明朝初期に活躍した政治家です。字は士奇、本名は寓。彼は、永楽帝から正統帝の時代まで、四代にわたり朝廷の中枢で活躍し、明朝の政治を支えました。特に、同じく内閣大学士を務めた楊栄、楊溥と共に「三楊」と称され、その卓越した政治手腕は広く知られています。

生い立ちと初期のキャリア

楊士奇は、江西省吉州府太和県の出身です。幼くして父親を亡くし、母親の再婚により一時的に羅姓を名乗りましたが、後に元の姓である楊に戻りました。彼は、建文帝の時代に太祖（洪武帝）実録の編纂に携わるため、翰林院に推挙されたことで、そのキャリアをスタートさせました。この頃から、彼の才能は徐々に頭角を現し始めます。

永楽帝の即位と内閣大学士

永楽帝が即位すると、楊士奇は翰林院編修に任ぜられ、その後も順調に出世を重ねます。そして、永楽22年（1424年）には内閣大学士に任命され、宰相として国政の中枢を担うことになります。この時、彼は国政における最高責任者として、国家運営の重要な決定に関わりました。

彼は、その後の洪熙帝、宣徳帝、そして正統帝の時代に至るまで、一貫して内閣大学士の地位にありました。約20年にわたる長期間にわたり、安定した政治運営に尽力し、明朝の発展に大きく貢献しました。

「三楊」としての活躍

楊士奇は、楊栄、楊溥とともに「三楊」と称され、彼らは互いに協力し、明朝の政治を支えました。三人は、それぞれ異なる得意分野を持ちながらも、互いの才能を認め合い、協調して国政を運営しました。その結果、明朝は安定した時代を迎えることになったのです。

文学における才能

楊士奇は、政治家としての手腕だけでなく、文学においても才能を発揮しました。彼は、「台閣体」と呼ばれる文学様式の創始者として知られています。台閣体は、典雅で格式の高い文章を特徴とし、後の時代の文学にも大きな影響を与えました。彼の文学的才能は、政治の世界にとどまらず、文化的な面でも明朝に貢献したと言えるでしょう。

死と追贈

楊士奇は、正統9年（1444年）に亡くなりました。その功績を称えられ、死後には太師の位が追贈され、文貞という諡号が贈られました。彼の死は、明朝にとって大きな損失であり、多くの人々が彼の死を悼みました。

周是修との逸話

楊士奇には、同郷の周是修との間に逸話が残されています。周是修は、靖難の変の際に「忠臣は利害を考えてはならない」という信念から建文帝に殉じました。当時、楊士奇を含む数名が周是修の主張に共感し、共に死ぬことを誓ったものの、結果的に皆生き延びて永楽帝に仕えました。後年、楊士奇は周是修の伝記を執筆し、周是修の子に「もしあの時私が共に死んでいたら、誰が父上の伝記を書いただろうか」と述べたところ、周囲は皆笑ったという逸話が残されています。この逸話は、楊士奇の人間性と機知に富んだ一面を表しています。

まとめ

楊士奇は、明朝初期を代表する政治家であり、その卓越した政治手腕と文学的才能により、明朝の発展に大きく貢献しました。四代の皇帝に仕え、国政の中枢を担い、明朝の安定に尽力した彼の業績は、後世に語り継がれるべきものです。また、彼の生きた時代には、同時代の人々との交流を通じて、様々な逸話が残されています。

参考文献

京都大学文学部東洋史研究室「改訂増補　東洋史辞典」1967年「楊士奇」
三田村泰助「中国文明の歴史 8 明帝国と倭寇」中公文庫、2000年、P214～215

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