弘田長

弘田長（ひろた つかさ）：日本の小児医療の先駆者

弘田長（ひろた つかさ）は、1859年（安政6年）に土佐国（現在の高知県）で生まれ、1928年（昭和3年）に没した日本の医師です。彼は、東京大学医学部小児科学教室の初代教授を務め、日本の小児医療の発展に大きく貢献しました。また、幼少期の昭和天皇の侍医を務めたことでも知られています。

生い立ちと医学の道へ

弘田長は、土佐藩の医師の家に生まれました。13歳で藩の貢進生として上京し、東京大学医学部で医学を修めました。卒業後は外科医としてキャリアをスタートしましたが、ドイツ留学中に小児科医のコルツ教授にその才能を見出され、小児科学へと転向します。ストラスブール大学で小児科学、病理学などを深く学び、1888年に帰国しました。

東京大学での活躍

帰国後、弘田長は東京大学医学部で小児科の臨床講義を担当し、1889年には教授に就任しました。彼は、日本初の小児科学教室を創設し、後進の育成に力を注ぎました。また、養育院医長を兼務するなど、社会的な貢献も果たしました。1891年には医学博士の学位を取得しています。

小児医療への貢献

弘田長は、日本における小児医療の確立に尽力しました。彼は、小児科の専門誌『小児科』を創刊し、小児医学の発展に貢献しました。また、国産初のベビーパウダー「シッカロール」を開発し、乳幼児の衛生環境改善にも貢献しました。さらに、日本初の小児科学教科書『児科必携』を出版し、日本の小児科教育の基礎を築きました。

昭和天皇との関わり

弘田長は、幼少期の昭和天皇（当時の迪宮裕仁親王）の侍医を務めました。天皇がジフテリアに罹患した際には、躊躇する侍従たちを説得し、自らの判断で血清を注射して快復させたというエピソードが残っています。彼は、その卓越した医療技術と子どもへの深い愛情で、皇室からの信頼も厚かったとされています。

日本小児科学会の創立

1896年、弘田長は小児科研究会を創立し、これが後の日本小児科学会へと発展しました。この学会は、日本の小児医療の発展に大きく貢献しており、現在も多くの小児科医が所属しています。

和光堂の設立

弘田長は、1906年に和光堂の前身となる和光堂薬局を設立しました。当時の日本の乳幼児死亡率の高さを憂い、ドイツの先進的な育児製品を輸入・販売することで、乳幼児の健康と福祉の向上に貢献しました。和光堂は、現在でも育児用品メーカーとして広く知られています。

研究活動

熊本医学校では外科を担当していましたが、ハンセン病の研究にも携わっていました。増田勇の『癩病と社会問題』や佐伯理一郎の証言により、その研究活動が記録されています。

晩年と業績

弘田長は、1921年に東京大学を退官し、名誉教授となりました。1928年に生涯を閉じましたが、彼の残した功績は、日本の小児医療の発展に不可欠なものでした。子どもを愛し、その健康を守ることに生涯を捧げた彼の精神は、今も多くの医療関係者に受け継がれています。

人物像

弘田長は、無類の子ども好きで知られており、子どもを題材にした短歌を多く残しています。その優しさ、誠実さは、多くの人々に感銘を与えました。

栄典

弘田長は、その功績により、正三位、旭日重光章など、数々の栄典を授与されています。

家族

長女は、東京大学教授の真鍋嘉一郎の妻となっています。

著書

弘田長は、多くの著書や編著、監修を手がけています。

• - 『小児看護の栞』（1915年）
• - 『児科必携』（1889年）
• - 『日本小児科叢書』（1912年 - 1920年）

弘田長の墓は、東京都豊島区の雑司ヶ谷霊園にあります。

参考資料

• - 山崎正董『肥後医育史』（1929年、2006年復刻版、熊本大学）
• - 増田勇『癩病と社会問題』（丸山舎、1907年）
• - 泉孝英『日本近現代 医学人名事典』（医学書院、2012年）
• - 小児保健研究『弘田長先生-第34回日本小児保健学会・パネル展から-』（尾木文之助）

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