弥富金魚

弥富金魚（やとみきんぎょ）

弥富金魚は、愛知県弥富市を中心に、津島市、愛西市の一部、海部郡飛島村で養殖されている金魚の総称です。その品種の豊富さと品質の高さから、日本を代表する金魚ブランドとして知られています。日本に存在するほぼ全ての金魚の品種、およそ26種類が弥富で生産されており、その規模は養殖池面積約100ヘクタール、生産数約5,000万匹に及びます。尾数では奈良県大和郡山市に及ばないものの、品種数、養殖池面積、そして売上高においては日本一を誇ります。弥富市歴史民俗資料館では、約20種類の金魚が展示されており、その優雅な姿を間近に見ることができます。

歴史

近世

弥富金魚の歴史は、江戸時代の文久年間（1861年-1864年）に遡ります。大和国郡山（現在の奈良県大和郡山市）の金魚商人が熱田へ向かう途中、前ヶ須（現在の弥富市）に滞在し、溜池を造成して金魚の水替えや休養に利用しました。この時、地元の寺子屋の教師であった権十郎が金魚に興味を持ち、商人から購入して飼育を始めたのが弥富金魚の始まりとされています。

近代

その後、郡山の商人から産卵や孵化の方法が伝えられ、1868年（明治元年）には佐藤宗十郎が採卵と孵化に成功しました。1884年（明治17年）頃からは、この地で本格的な金魚養殖が始まり、1897年（明治30年）頃には300ヘクタールもの水田が金魚田に転換され、金魚養殖による収益は米作を大きく上回りました。大正末期には、56町歩もの金魚田が存在したと記録されています。1895年（明治28年）に関西鉄道（現在のJR関西本線）、1933年（昭和8年）に国道1号が開通したことで、弥富金魚の流通は飛躍的に発展しました。

当初は郡山から持ち込まれたワキンやオランダシシガシラなどが中心でしたが、その後、東京からマルコ、デメキン、リュウキン、シュブンキンなどが導入され、東西両地域への出荷が盛んになりました。昭和初期には、郡山や東京が高級金魚の産地、弥富はリュウキンやワキンの大量生産地として知られていました。この頃には北米への輸出も行われ、1931年（昭和6年）には20万尾もの金魚が輸出されました。弥富は、日本における金魚輸出の先駆け的存在だったと言えるでしょう。

現代

太平洋戦争中には一時的に金魚養殖が衰退しましたが、戦後には復興の兆しを見せました。しかし、1959年（昭和34年）の伊勢湾台風によって養殖業者は甚大な被害を受け、関東や関西の業者からの支援によって再建されました。伊勢湾台風の際には、弥富町の養殖場から全ての金魚が流出し、10km以上離れた津島市や佐織町の水路や水田でも多数発見されたと言われています。昭和40年代には、減反政策によって稲作農家が金魚養殖に転換し、1976年（昭和51年）から1977年（昭和52年）にかけて生産量のピークを迎えました。1975年（昭和50年）には、金魚養殖面積が207.5ヘクタールに達しました。昭和50年代には高級志向が高まり、ランチュウなどの高級品種が飼育されるようになりました。

1994年（平成6年）頃の弥富金魚漁業協同組合の組合員は約130人、販売市場は3か所、年間の出荷量は7,000万匹でした。同年7月には、宇宙飛行士の向井千秋がスペースシャトルコロンビア号で弥富金魚を用いた宇宙酔いの実験を行い、この金魚は「宇宙金魚」と呼ばれました。1996年（平成8年）には、江戸錦とランチュウの交配種が「桜錦」として新品種登録され、18年ぶりの新品種認定となりました。

2005年（平成17年）の愛知万博（愛・地球博）では、「宇宙金魚」の子孫が配布されました。2006年（平成18年）には弥富町と十四山村が合併し、弥富市が誕生しました。しかし、養殖池が多くある地域が市街化調整区域となったことで、養殖池の埋め立てと宅地化が進んでいます。2007年（平成19年）には、弥富金魚のイメージソング『近所の金魚は弥富のきんちゃん』が完成しました。

2010年（平成22年）の金魚養殖場面積は56.6ヘクタールと、ピーク時の4分の1程度に減少しています。また、2017年（平成29年）には野鳥による食害が原因とみられる金魚の大量消失被害が相次いで発生しました。1968年（昭和43年）頃には約300軒の生産業者がいましたが、2018年（平成30年）時点では約80軒にまで減少しています。

特徴

品種

弥富金魚は、多種多様な品種が生産されていることが特徴です。

主要品種: ワキン、リュウキン、デメキンなど
高級品種: ランチュウ、アズマニシキ、タンチョウなど

かつてはリュウキンやワキンが中心でしたが、近年では高級品種の割合が増加しています。

自然条件

弥富地域が金魚養殖に適している理由として、以下の自然条件が挙げられます。

低湿地で水が豊富であり、わずかに塩分を含んでいること
稚魚の餌となるミジンコの生育に適した粘土質の土壌であること
金魚の光沢を美しくする酸化鉄を含む土壌であること
年間を通じて水温の変化が少ないこと

流通

弥富金魚は、3つの卸売市場を通じて全国各地へ出荷されます。セリ市は、4月から8月には週3回、9月から11月には週2回、12月から翌年2月には週1回、3月から4月前半には週2回の頻度で開催されます。

年間行事

弥富市では、金魚に関連する様々なイベントが開催されています。

3月3日：金魚の日
4月第1週：やとみ春まつり金魚品評会
4月第2週：日本観賞魚フェア品評会
10月第4週：金魚日本一大会品評会

これらのイベントを通じて、弥富金魚の魅力を発信しています。

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