弦楽四重奏曲第14番 (ベートーヴェン)

ベートーヴェンの内なる声：弦楽四重奏曲第14番 嬰ハ短調 作品131

弦楽四重奏曲第14番 嬰ハ短調 作品131は、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが1826年に完成させた、弦楽四重奏曲の中でもひときわ重要な作品です。第13番、第15番と並び、ベートーヴェン最晩年の弦楽四重奏曲の傑作として知られています。作曲された順番としては15番目ですが、出版順によって14番とされています。

依頼によって作曲された第12番、第13番、第15番とは異なり、この第14番はベートーヴェンが自発的に作曲した作品です。そのため、作曲家の内側から湧き上がる欲求によって生み出された、より芸術性の高い作品に仕上がっていると言えるでしょう。ベートーヴェン自身もこの曲に自信を持っており、作曲中に「ありがたいことに、創造力は昔よりもそんなに衰えてはいないよ」と友人に語ったと伝えられています。シューベルトは本作を聴き、「この後でわれわれに何が書けるというのだ？」と感嘆したと言われています。この曲は、ベートーヴェンの甥カールが所属していた連隊の中将、ヨーゼフ・フォン・シュトゥッターハイム男爵に献呈されました。

多様な感情が織りなす7楽章構成

この弦楽四重奏曲は、通常の形式よりも多い7つの楽章で構成されています。しかし、第1楽章を長大な序奏、短い第3・第6楽章を楽章連結の経過句と捉えれば、従来の4楽章構成を踏まえたものであると解釈することも可能です。全曲は休みなく連続して演奏され、演奏時間は約38分です。

各楽章の特徴は以下の通りです。

第1楽章 Adagio ma non troppo e molto espressivo: 嬰ハ短調、2分の2拍子。自由な形式のフーガであり、第1ヴァイオリンによって奏でられる2つの動機が、楽章全体を構成していきます。緩やかな楽章で開始されるのは異例ですが、上述のように序奏と捉えることもできます。ワーグナーは、この楽章を「音をもって表現しうる最も悲痛なるもの」と評しました。

第2楽章 Allegro molto vivace: ニ長調、8分の6拍子。遠隔調であるニ長調に転じ、生き生きとした主題を持つロンド形式で展開されます。副主題がロンド主題から導き出されるなど、自由な形式が見られます。

第3楽章 Allegro moderato - Adagio: わずか11小節で構成されており、独立した楽章というよりも、次の楽章への経過句としての性格が強いです。アレグロ・モデラートで始まる6小節と、第1ヴァイオリンのカデンツァを中心とした5小節のアダージョからなります。

第4楽章 Andante ma non troppo e molto cantabile - Più mosso - Andante moderato e lusinghiero - Adagio - Allegretto - Adagio, ma non troppo e semplice - Allegretto: イ長調、4分の2拍子。主題と6つの変奏からなる、全曲中でもっとも長大な楽章です。ベートーヴェンが晩年に力を入れていた緩徐楽章における変奏曲形式の頂点とも言えるでしょう。主題は2つのヴァイオリンが交互に歌い、各変奏において、速度やリズム、旋律が変化し、変奏の可能性の極限を追求しています。

第5楽章 Presto: ホ長調、2分の2拍子。3拍子ではありませんが、スケルツォに相当します。諧謔的な主題を持ち、のびやかなトリオが2度繰り返されます。ピチカートによる楽器間のやり取りや、コーダにおけるスル・ポンティチェロなど、楽器演奏の可能性も探求されています。

第6楽章 Adagio quasi un poco andante: 嬰ト短調、4分の3拍子。ベートーヴェンの全楽曲の中でも非常に珍しい調性です。ヴィオラによって物悲しいカヴァティーナ風の旋律が奏でられます。この旋律はフランス民謡から取られたとも言われています。最終楽章への導入としての性格が強いです。

* 第7楽章 Allegro: 嬰ハ短調、2分の2拍子。ソナタ形式で構成された終楽章ですが、行進曲調の力強い第1主題が何度も現れるため、ロンド形式のようにも感じられます。第2主題は音階風の流れるような旋律です。コーダでは、ポコ・アダージョになるなど、リズムと旋律が目まぐるしく変化し、最後は長調の響きで締めくくられます。

ベートーヴェンの内なる声が響き渡る、弦楽四重奏曲第14番。ぜひ一度、じっくりと聴いてみてください。

弦楽四重奏曲 第14番 嬰ハ短調 作品131の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)

映画『25年目の弦楽四重奏』公式サイト - この映画で弦楽四重奏曲 第14番 嬰ハ短調が使われている。

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