張扇

張扇（はりおうぎ）について

張扇、またははりおうぎは、能楽や講談、落語といった日本の伝統的な演芸で使われる特別な扇子です。この扇は音を出すために設計されており、一般的に「はりおうぎ」と発音されます。

先史的な背景

古代から近世にかけて、日本の芸能において拍子を取る際に使われていたのは、手の平を打つことで音を出す道具や楽器でした。特に雅楽では、笏（しゃく）を使って拍子を取る「笏拍子」という手法が存在していました。また、浄瑠璃などの邦楽においては「扇拍子」と呼ばれる方法で、閉じた扇を用いて手や台を叩くことが一般的でした。
近世以降、鼓などの打楽器が発展するにつれ、扇拍子の利用は徐々に減っていきましたが、その手軽さから専用の張扇を使用する伝統が残っています。

張扇の製作と利用

能楽における使用

張扇は通常の扇子を二つに割り、全体に紙を巻き付け、その上から皮や紙を化粧貼りすることで作られます。持ち手をつける際には、二本一対で使用され、各手に一本を持ち、拍子板（張盤）を打つために使います。能楽の中では「アシライ」と呼ばれ、この扇拍子を用いることで、稽古や演奏時に小鼓、大鼓、太鼓の代わりに音を出すことができます。この方法は正式な演奏ではなく簡便な手法ですが、時間がかかる楽器の代替手段として重宝されています。また、能楽では音色よりも間を重視するため、特に有効な奏法とされています。

講談と落語での使用

張扇は能楽で使用されるものよりも大きく作られることが一般的です。時には、単に扇の形を持つだけで、紙を貼って形作ることもあります。主に片手で持ち、釈台や見台を叩くことで使用されます。講談では、場面転換の合図や山場の演出に使われ、上方落語でも同様の用法が見られます。「張扇の音とともに叩き出した」などの表現は、これらの話芸に由来するものです。

その他の利用

大正期までの古典萬歳においては、太夫（ツッコミ）の役割を果たす者が、舞扇の親骨を抜いたものを使い、時折、才蔵（ボケ）を叩いて笑いを引き起こす演出が行われました。このスタイルは、後の紙製のハリセンの発展につながったと考えられています。

結論

張扇は、日本の伝統芸能の中で重要な役割を果たす道具であり、その製法や使用法は各芸能の特徴に応じて異なります。日本の文化に根付いたこのユニークな扇子は、演者と観客の心をつなぐ重要な要素となっています。

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