萬歳

萬歳（まんざい）とは

萬歳は、日本の伝統芸能の一つであり、新年の祝言を述べる話芸として全国各地で興りました。現代の漫才のルーツとも言われています。地域名を冠して区別されることが多く、その形態や歴史は多岐に渡ります。

形式

萬歳は基本的に太夫（たゆう）と才蔵（さいぞう）の2人1組で演じられます。太夫は祝詞を述べ、才蔵は合いの手を入れる役割を担います。かつては門付け（家の門前で芸を披露すること）が一般的でしたが、現在では座敷などで行われることもあります。

編成

太夫と才蔵の2人一組が基本ですが、演目によっては三味線や胡弓などの楽器が加わることもあります。才蔵は小鼓を持つのが基本ですが、地域や演目によって太鼓や拍子木を用いる場合もあります。越前萬歳や加賀萬歳では、すり太鼓という独特の楽器を使用します。

衣装

萬歳の衣装は時代や地域によって変化してきました。古くは舞楽の装束を模し、太夫は鳥兜をかぶっていましたが、室町時代には侍烏帽子をかぶり、素襖と平袴を着用するのが一般的になりました。才蔵は大黒頭巾のようなものをかぶり、大袋を背負う姿が特徴です。江戸時代には三河萬歳が徳川家によって優遇され、武士のような帯刀や直垂の着用が許されました。各地に広まる中で、能や歌舞伎の要素を取り入れ、衣装はさらに多様化しました。

歴史

起源

萬歳の起源は定かではありませんが、奈良時代の「踏歌（とうか）」という宮中行事がルーツであるという説があります。踏歌では、万春楽（ばんすらく）という曲を囃したことから、萬歳という言葉が生まれたと考えられています。また、雅楽には君主の長久を祝う「萬歳楽（まんざいらく）」という曲があり、これが「千秋萬歳（せんずまんざい）」を経て萬歳になったという説もあります。その他、歳神が家々を訪れて祝福を与えるという民間信仰が起源であるという説も存在します。これは、歳神に扮した者が神の依り代となり、祝福を与えて歩いたものが、後に宮中に出入りするようになったとするものです。

変遷

平安時代末期には、千秋萬歳が貴族の間で正月の恒例行事となりました。千秋萬歳法師が祝いの言葉を述べ、舞を披露したと言われています。鎌倉時代以降は、寺社や武家などの権門勢家を訪れるようになり、室町時代には声聞師が千秋萬歳法師の代わりを務めるようになりました。室町時代中期には一般民家にも門付けをするようになり、萬歳は広く民衆に親しまれるようになりました。

伝播と拡大

大和（奈良県）の萬歳が千秋萬歳として京に伝わり、その後、尾張萬歳や三河萬歳へと広がったと考えられています。しかし、それぞれの地域では独自の伝承を主張しており、越前萬歳は1500年前の継体天皇にまつわる伝承を起源としています。江戸時代以降に伝わった各地の萬歳は、多くがその継承過程を明らかにしています。加賀萬歳は越前萬歳、秋田萬歳や会津萬歳は三河萬歳、伊予萬歳は尾張萬歳の系統を汲んでいます。

衰退と復興

明治時代には、さらに多くの地域で萬歳が発達しましたが、その多くは三河萬歳と尾張萬歳の系統でした。三河萬歳は、仏教色の強い陰陽道の影響から国家神道に変化し、大正時代まで宮中への参内が行われました。一方、尾張萬歳は娯楽性を高め、通年で興行として成立するものも現れ、そこから漫才の基礎となる形が生まれました。第二次世界大戦頃までは、正月に行われる萬歳も盛んでしたが、戦後、多くの萬歳は衰退し、大和萬歳は継承者が途絶えてしまいました。現在では、各地の萬歳は復興の動きが見られ、三河萬歳、越前萬歳、尾張萬歳は国の重要無形民俗文化財に指定されています。

各地の萬歳

主な萬歳には、以下のようなものがあります。

秋田萬歳（秋田県）
会津萬歳（福島県）
加賀萬歳（石川県）
越前萬歳（福井県） - 国指定重要無形民俗文化財
三河萬歳（愛知県） - 国指定重要無形民俗文化財
尾張萬歳（愛知県） - 国指定重要無形民俗文化財
伊勢萬歳（三重県）
大和萬歳（奈良県）
伊予萬歳（愛媛県）
沖縄萬歳


沖縄県の高平良萬歳は、組踊「万歳敵討」の一場面を抜き出した琉球舞踊であり、この項目でいう萬歳とは異なります。沖縄の本来の萬歳は、萬歳行者（まんざいこーしー）が新年に各家を訪れ祝言を述べ、人形を舞わせていたようですが、大正時代には衰退していました。

関連書籍

萬歳を題材にした書籍として、以下のようなものがあります。

しかたしん『ぼくと化け姉さん』：萬歳師の家系に生まれた少年を主人公とした物語。
木内昇『笑い三年、泣き三月。』：戦後の浅草を舞台に、萬歳芸人たちの姿を描いた作品。

関連項目

* 千秋万歳

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