張鯨

張鯨：金朝末期の群雄、その盛衰

張鯨は、金朝末期の混乱期に頭角を現した群雄の一人です。弟に張致がいました。

勃興とモンゴルへの降伏

1213年、チンギス・カンによる金朝への侵攻が始まると、金朝の支配力は急速に低下し、華北地方は荒廃しました。このような状況下で、各地の有力者が自立の動きを見せ始めます。1214年末、錦州に拠点を置く張鯨は、10万を超える兵力を集め、金朝の節度使を討ち、自ら臨海郡王を称しました。

同時期、モンゴル帝国の左翼万人隊長であるムカリ率いる軍団が遼西地方に進出しており、張鯨はムカリに降伏しました。

チンギス・カンの命と粛清

1215年、チンギス・カンは張鯨に対し、北京（大定府）の十提控兵を統括し、華北に残存する金朝勢力を討伐するよう命じます。しかし、ムカリは張鯨が心底モンゴルに帰順したとは考えていませんでした。そのため、ムカリの要請により、契丹人の将軍である石抹エセンとトルン・チェルビが張鯨の行動を監視することになりました。

張鯨は平州に到達すると、病気を理由に進軍を拒否します。この動きを察知した石抹エセンは直ちに張鯨を捕らえ、チンギス・カンの下へ連行しました。チンギス・カンは張鯨を詰問しましたが、張鯨は「私は病気であり、反乱を起こす意図はありません」と弁明しました。これに対し、チンギス・カンは「もし弟を人質として差し出せば、命を助けてやろう」と、弟の張致を差し出すよう要求しました。

張鯨は一旦この要求を受け入れたものの、その夜のうちに逃亡。石抹エセンによって追跡され、最終的に殺害されました。

張致の離反と遼西地方の再侵攻

兄の死を知った張致は、モンゴルから離反し、錦州で再び自立します。これにより、モンゴル軍は一度は降伏した遼西地方の諸城を再侵攻せざるを得なくなりました。

『聖武親征録』の記述について

『聖武親征録』には、張鯨が1216年に「遼西王」を称し、「大漢」と改元したという記述があります。しかし、『元史』太祖本紀や関連する列伝にはそのような記述は見られません。

まとめ

張鯨は、金朝末期の混乱に乗じて勢力を拡大したものの、モンゴルへの不誠実な態度が災いし、最終的には粛清されるという悲劇的な結末を迎えました。彼の行動は、モンゴルによる遼西地方の再侵攻を引き起こし、その後の歴史に影響を与えました。

参考文献
* 池内宏「金末の満洲」『満鮮史研究 中世第一冊』荻原星文館、1943年

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