石抹エセン

石抹エセン（せきまつ エセン）

石抹エセン（生没年不詳）は、モンゴル帝国に仕えた契丹人の一人です。漢文史料では石抹也先、石抹阿辛という2通りの表記が見られます。

生い立ちとチンギス・カンへの帰順

石抹エセンは、キタイ帝国（遼朝）の歴代皇后を輩出した審密＝石抹氏（漢風には蕭氏）の出身でした。幼少の頃から宗国（遼朝）の滅亡原因を憂い、その復興を志していたと伝えられています。成長すると武勇知略に優れ、その名声は周辺諸部にも知れ渡りました。金朝から奚部の長に任じられようとしましたが、兄にその地位を譲り、自らは野山に隠棲して機会を待ちました。

チンギス・カンの勃興を知ると、馬匹を献上して帰順。「東京（遼陽府）は金朝開基の地であり、そこを脅かせば中原も攻略できる」と進言し、チンギス・カンを喜ばせました。ムカリの指揮下に入り、東京攻略に参戦することになります。

東京攻略での活躍

臨潢府を経て高州に進軍した際、エセンはムカリから先鋒を命じられました。そこでエセンは、交代したばかりの東京留守を待ち伏せして襲撃し、任命書を奪うという奇策を実行します。自らが新たな東京留守であると偽って城内に入り込み、守備兵を撤退させることに成功。3日後、ムカリ率いる本隊が到着すると、東京は戦わずして陥落しました。この功績により、モンゴル軍は広大な土地と莫大な資源を手に入れることになります。この東京陥落は、金朝が黄河以北の領有を諦め、都を河南に移す一因となりました。

北京攻略と遼西平定

1215年には北京（大定府）包囲戦に参加。落城後には城民を虐殺しようとした武将を説得して思い止まらせ、その功績によって御史大夫・領北京ダルガチの地位を得ました。また、石天応らが興中府で自立を図ると、別動隊を率いてこれを降伏させ、興中尹に任じられました。

トルン・チェルビの副官として、モンゴルに降伏した張鯨らの監視も行いました。張鯨が病を理由に進軍を停止すると、その反乱を疑い捕縛。チンギス・カンの下へ送り届けました。張鯨は後に脱走し、エセンはこれを追って殺害。弟の張致が自立すると、これも平定しました。これらの功績により上将軍となり、「遼河から西、灤水より東」の遼西地方を完全に平定することに成功しました。

壮年での死

その後、ムカリの指揮下で蠡州北城を攻めている最中、城壁に上ろうとして投石に当たり、41歳で亡くなりました。子には石抹査剌、石抹咸錫、石抹博羅、石抹侃の4人がおり、石抹査剌が跡を継ぎました。

参考文献

愛宕松男「キタイ氏族制の起源とトーテミズム」『史林』38巻6号、1955年
『元史』巻150列伝37石抹也先伝、巻152列伝39石抹阿辛伝
『新元史』巻135列伝32石抹也先伝
『蒙兀児史記』巻49列伝31石抹也先伝

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