強制収容所 (ナチス)

強制収容所（Konzentrationslager）

強制収容所は、ナチス・ドイツがユダヤ人、政治犯、ロマ、同性愛者、ソ連捕虜など様々な人々を収容するために設けた施設です。一般に「KZ」と略され、親衛隊は公式に「KL」と略しました。この施設は、ナチス政権下の人種差別と大量虐殺の象徴であり、その歴史は深く悲惨なものです。

強制収容所の歴史

強制収容所創設の背景

1933年、アドルフ・ヒトラーがドイツ首相に就任すると、ナチス党は反ナチス勢力の弾圧を開始しました。ヴァイマル憲法で保障されていた言論の自由や集会の自由が停止され、反体制的な言動を取り締まるための法的根拠として、大統領緊急令が発令されました。この緊急令は「公共秩序を害する違法行為は強制労働で処する」と定め、強制収容所への収容を可能にしました。

当初、共産党員や社会民主党員が「潜在的な危険分子」として収容されました。裁判を避けるため、彼らは「犯罪者」ではなく「保護拘禁」という名目で収容されました。初期の収容所は再教育を目的としていましたが、後にその目的は大きく変化していきます。

初期の強制収容所（1933年-1934年）

初期の収容所は、主に政治犯が対象で、ユダヤ人が収容されることは稀でした。収容環境は必ずしも劣悪ではなく、思想を転向すれば解放される見込みもありました。しかし、これは一時的な状況であり、後に収容所の実態は大きく変化します。

プロイセン

プロイセン州内相に任命されたヘルマン・ゲーリングは、州秘密警察（ゲシュタポ）を創設し、共産党員を大量に逮捕しました。正規警察による逮捕者は刑務所に収容されましたが、突撃隊や親衛隊による逮捕者は「私設強制収容所」に収容され、虐待を受けることがありました。

ゲーリングは、プロイセン州公認の6つの強制収容所を定め、私設収容所を解散させましたが、親衛隊のコロンビアハウス強制収容所は例外として存続しました。

ゲーリングはニュルンベルク裁判で、強制収容所のモデルはボーア戦争時のイギリスの収容所であると証言しています。

バイエルン

バイエルン州では、ミュンヘン警察長官ハインリヒ・ヒムラーが、ダッハウ強制収容所を設立しました。この収容所は親衛隊によって運営され、初代所長テオドール・アイケは収容所の組織体制や罰則を制定しました。ダッハウは、その後の強制収容所のモデルとなりました。

親衛隊管理下の強制収容所（1934年-1945年）

戦前期（1934年-1939年）

1934年、ゲシュタポの指揮権がヒムラーに移ると、強制収容所は親衛隊の支配下に置かれました。「保護拘禁規則」は乱用を防ぐためのものとされましたが、実際には守られず、1938年には親衛隊に都合の良いように改変されました。

突撃隊が粛清されると、親衛隊は権力を拡大し、強制収容所の運営権を掌握しました。アイケは全強制収容所監督官に任命され、親衛隊髑髏部隊を組織しました。

ザクセンハウゼン、ブーヘンヴァルトなどの大規模収容所が建設され、中小収容所は解体されました。オーストリア併合後は、マウトハウゼン、フロッセンビュルクが設置され、ラーフェンスブリュック（女囚用）、ノイエンガンメも設立されました。

1935年頃から、常習的犯罪者や「反社会分子」も収容されるようになりました。1938年には、ユダヤ人も「反社会分子」とみなされるようになり、水晶の夜事件後には大量のユダヤ人が収容されました。また、エホバの証人も収容されました。

収容者の増加は、労働力確保のためでもありました。1938年以降、刑事犯が収容者の多数を占めるようになりました。

開戦直前の収容者数は約2万5000人で、そのほとんどがドイツ人（オーストリア人を含む）でした。

戦時中（1939年-1945年）

第二次世界大戦中には、占領地にも多くの強制収容所が建設されました。シュトゥットホーフ、アウシュヴィッツ＝ビルケナウ、グロース・ローゼン、マイダネク、ナッツヴァイラーなどの大規模収容所が設立されました。

収容対象は、占領地の反独勢力、反体制分子、ソ連捕虜、経済犯、職場放棄者など多岐にわたりました。ソ連捕虜はジュネーヴ条約の対象外とされ、特に過酷な扱いを受けました。一方で、オランダ人やベルギー人などのゲルマン民族は比較的優遇されました。

収容者数は1942年までに10万人近くまで増加し、収容所の状況は一時的に悪化しましたが、後に労働力としての価値が見出されると、食料も優先的に支給されるようになりました。

1940年から1941年にかけて、収容所はカテゴリー分けされましたが、これは実態を反映していないという見方もあります。

1942年には、イギリスのBBCがユダヤ人の大量虐殺を報道しましたが、アメリカではほとんど報道されませんでした。

1942年以降、収容所は奴隷労働力供給源としての側面が強まり、労働意欲を高めるための報酬制度も導入されました。

ナチス強制収容所に送られた人の総数は800万人から1000万人と推定されていますが、常時収容されていたのは100万人を超えることはなかったと思われます。

1944年以降、収容者数は急増し、過密と飢餓、伝染病が蔓延しました。

絶滅収容所の建設

ヒトラーは1941年にユダヤ人の絶滅を決定し、ヒムラーが絶滅収容所の建設を指示しました。アウシュヴィッツ＝ビルケナウとマイダネクが強制収容所と絶滅収容所の役割を兼ねるように拡張されました。アウシュヴィッツではチクロンBが使用され、大量のユダヤ人が殺害されました。

解放

1944年から1945年にかけて、マイダネク、アウシュヴィッツ、ブーヘンヴァルト、ダッハウ、ベルゲン・ベルゼンなどが次々と連合軍によって解放されました。これらの収容所の悲惨な状況は、世界に衝撃を与えました。

ドイツ降伏後

ドイツ降伏後、連合国はドイツ軍捕虜や民族ドイツ人を収容しましたが、その実態は十分に明らかにされていません。

収容所の組織体制

看守

強制収容所は、強制収容所監督官の管轄下にありました。各収容所には、司令部、司令部幕僚部、保護拘禁収容所指導部がありました。

司令部

所長（司令官）は収容所の絶対的支配者で、強制収容所監督官に責任を負っていました。

司令部幕僚部

管理指導者が、食糧や被服などの経理事務を担当していました。

保護拘禁収容所指導部

保護拘禁収容所指導者は、囚人を直接管理しました。連絡指導者、ブロック指導者、労働指導者、作業班指導者がその下にいました。

政治局

政治局はゲシュタポの出先機関であり、収容所の地下活動を取り締まり、囚人の個人カードを管理していました。

監視隊

親衛隊髑髏部隊が、収容所の警備を担当していました。

囚人

囚人のカテゴリ

囚人は、服に色付きの三角形のバッジを縫い付け、その色でカテゴリ分けされました。赤は政治犯、緑は刑事犯、紫はエホバの証人、黒は反社会分子、ピンクは同性愛者を示しました。ユダヤ人は黄色い正三角形を付け、ダビデの星を形成しました。

囚人の人種ヒエラルキー

収容所内では、人種ヒエラルキーが存在しました。スラブ民族は最下層に位置づけられ、ゲルマン民族は優遇されました。ドイツ人囚人は「収容所の貴族」とみなされ、特権的な地位を与えられました。

囚人の役職

収容所には、収容所古参、ブロック古参、カポなどの囚人役職が存在し、彼らは他の囚人を管理していました。ドイツ人やポーランド人が役職に就くことが多く、「赤」の政治犯（特に共産党員）が重用されました。

囚人用売春施設

強制労働の生産性を向上させるために、1942年に囚人用の売春施設が建設されました。

類似施設

強制労働収容所

各地区の親衛隊及び警察指導者が運営する、強制労働のための収容所です。

絶滅収容所

ユダヤ人やロマを民族絶滅させるための殺戮施設です。ヘウムノ、ベウジェツ、ソビボル、トレブリンカなどが該当します。

通過収容所

強制収容所や絶滅収容所に移送されるまでの一時的な収容所です。

ゲットー

ユダヤ人の隔離居住区であり、通過収容所として機能することもありました。

主な強制収容所一覧

強制収容所の一覧は、本文に記載されている通りです。

脚注

注釈

本文に記載されている通りです。

出典

本文に記載されている通りです。

参考文献

本文に記載されている通りです。

関連書籍

本文に記載されている通りです。

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