彭越

彭越（ほう えつ）

彭越（? - 紀元前196年）は、中国の秦末から楚漢戦争期にかけて活躍した武将です。字は仲。唐の史館が選んだ中国史上六十四名将の一人にも選ばれています。

生涯

碭郡昌邑県（現在の山東省菏沢市巨野県）出身。若い頃は沼沢地で漁師をしながら盗賊をしていました。秦の政治が乱れると、人々から反乱の首領に推されますが、当初は「今は二匹の龍が争っている」として断りました。しかし、度重なる要請を受け、反乱軍の勢いが増すにつれて、ついに首領となることを決意します。

首領となるにあたり、彭越は「明日の朝の出陣に遅れた者は処刑する」と厳命しました。しかし、集まったのは烏合の衆であり、遅刻者が続出。彭越は、最も遅れた者を処刑することで規律を示し、軍をまとめ上げました。

同時期、陳勝・項梁らが蜂起し、天下は騒乱状態となっていました。彭越は楚軍に加わり、劉邦が咸陽へ進軍する途上、旧魏の領内にある昌邑攻略に協力し、これを陥落させました。

秦滅亡後、項羽は論功行賞を行いましたが、彭越には何も与えられませんでした。これに不満を持った彭越は、同じく不遇をかこっていた旧斉の王族・田栄らと結び、田栄から将軍の印を受け、済陰で兵を挙げました。項羽の分配は不公平であり、彭越の他にも各地で反乱が勃発。劉邦も漢中から関中に攻め込み、項羽と対立するようになります。

彭越は済陰を拠点に勢力を拡大し、多くの都市を攻略しました。項羽は将軍・蕭公角に討伐を命じますが、彭越はこれを撃退。その後、劉邦が魏豹を魏王に擁立すると、彭越はその相国に任じられました。しかし、劉邦が項羽に敗れて逃亡すると、彭越も根拠地を離れ、ゲリラ戦術に移行します。

彭越は神出鬼没に現れては楚軍の兵糧を焼き払い、項羽以外の将が来ればこれを撃退、項羽本人が現れると逃亡するという戦法を繰り返しました。これにより、楚軍は常に食糧不足に悩まされ、項羽も度々彭越の討伐に戻らざるを得なくなり、劉邦への圧力を弱めることになりました。彭越のゲリラ戦術は、劉邦が幾度となく危機を脱する上で大きな役割を果たしたと言えるでしょう。

劉邦と項羽の争いは膠着状態となり、広武山で対峙しますが、食糧が尽きたため一旦和議を結び、それぞれ帰国することになりました。しかし、劉邦は張良の進言を受け、項羽の背後を襲撃。彭越と韓信にも共同で項羽を攻めるように要請しましたが、両者とも動きませんでした。劉邦が十分な褒美を約束していなかったことと、漢楚の争いが続くことこそが自身の価値であると理解していたためです。

単独では項羽に敵わない劉邦軍は敗北。窮地に陥った劉邦は、韓信を斉王、彭越を梁王にすることを約束しました。これにより、彭越と韓信は参戦を決意。両者の援軍を得た劉邦は、項羽を垓下に追い詰め、ついに滅ぼしました。

没落

梁王となった彭越は、前漢王朝の重臣として栄華を極めました。燕王・臧荼が反乱を起こして敗れると、捕虜となっていた旧友・欒布の助命を嘆願し、彼を梁国の大夫に取り立てています。しかし、皇帝となった劉邦は、次第に彭越ら軍功によって地位を築いた家臣たちを猜疑するようになります。特に彭越、英布、韓信は、その軍事能力の高さから警戒されました。

代王・陳豨が反乱を起こすと、劉邦は親征軍を起こし、彭越にも出陣を命じましたが、彭越は病気を理由に兵を将軍に預けて派遣しました。これに劉邦は激怒し、使者を送って彭越を責め立てます。彭越は誅殺されることを恐れ、部下の扈輒は反乱を勧めますが、彭越は病気を理由に引きこもります。

紀元前196年、彭越の部下が「彭越は反乱を企んでいる」と讒言したため、劉邦は彭越を捕らえ、梁王の地位を剥奪しました。当初は彭越を殺そうと考えていた劉邦も、直接会って話すと同情し、庶民として蜀郡青衣県へ流罪にすることにしました。

蜀郡は辺境の地であったため、彭越は故郷の昌邑へ帰って隠棲したいと願い、呂雉に泣きついて劉邦に伝えてくれるよう頼みます。呂雉は快く引き受けたものの、劉邦に会うと彭越のような危険な人物を生かしておくのは禍根を残すと進言し、劉邦もこれを受け入れ、彭越は処刑されることになりました。

彭越の首は洛陽の市街地で晒され、遺体は防腐処理を施された上で諸侯に送られました。この処刑は、他の諸侯王たちに衝撃を与え、淮南王・英布の反乱を招く一因となりました。

彭越の死後、斉への使者として派遣されていた欒布は、帰国すると彭越の首級に復命し、首を祀って号泣しました。欒布を捕らえた劉邦は彼を煮殺そうとしますが、欒布は「彭越がいなければ、項羽を滅ぼすことはできなかったはずだ。それなのに、不確かな証拠で功臣を殺すとは、配下の将兵は自分の身も危ういと思うだろう」と反論。劉邦は彼の忠義に免じて許し、都尉に任命しました。

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