紀時文

紀時文（きのときぶみ）は、平安時代中期に活躍した貴族であり歌人です。父は歌人として名高い紀貫之で、彼は三十六歌仙の一人にも数えられています。紀時文は、従五位上・大膳大夫の官位にまで昇りました。

経歴

紀時文は、天暦5年（951年）に梨壺の五人の一人に選ばれました。この役職は、当時の文化事業において重要な役割を担っており、『万葉集』の訓読や『後撰和歌集』の撰集といった事業に携わりました。

書家としても才能を発揮し、村上天皇の時代には月次屏風の色紙形を書いています。小野道風の没後には、兼明親王に次ぐ能書家として尊重されていたことが窺えます。安和元年（968年）には、冷泉天皇の大嘗会で使用される屏風の色紙形を揮毫するなど、書における才能を発揮しました。

歌人としての力量は父・貫之には及ばなかったようで、勅撰和歌集には『拾遺和歌集』以下にわずか5首が入集しているのみで、家集も伝わっていません。しかし、恵慶・清原元輔・源順・大中臣能宣といった当時の歌人たちと交流があったことが知られています。

また、国文学者の上原作和は、藤原為時の娘、つまり後の紫式部の最初の夫は紀時文であるという説を唱えています。紫式部の生年については諸説ありますが、もしこの説が正しければ、紀時文と紫式部は40歳以上も年齢が離れた夫婦だったということになります。

系譜

父：紀貫之
母：不詳
妻：不詳
男子：紀輔時
男子：紀時継
男子：紀文正
男子：紀時実

参考文献

春名好重『藤原佐理』吉川弘文館〈人物叢書〉、1989年

紀時文は、歌人としては父に及ばなかったものの、書家として、また文化事業に貢献した人物として、その名を知られています。梨壺の五人としての活動や、屏風の色紙形を手がけたことは、彼の才能と当時の文化における貢献を示すものと言えるでしょう。

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