御代田合戦

御代田合戦：奥州の勢力図を塗り替えた戦い

御代田合戦は、天正8年（1580年）から翌9年（1581年）にかけて、陸奥国田村郡の御代田城（現在の福島県郡山市田村町御代田）を舞台に繰り広げられました。この戦いは、佐竹義重を盟主とする連合軍と、田村清顕との間で激しい攻防が展開されました。

前史：複雑に絡み合う勢力関係

佐竹氏の陸奥方面への進出は、佐竹義篤の時代から本格化し、白河結城氏の支配する高野郡を狙っていました。これに対し、会津の蘆名盛氏は結城義親と娘を娶らせることで対抗しました。蘆名氏・白河結城氏は後北条氏と連携し、田村清顕、那須資胤を味方に引き入れ、四者同盟を結びました。しかし、田村清顕と那須資胤は同盟を破棄し、佐竹義重と同盟。白河結城氏の内紛を機に、佐竹義重は高野郡・白河郡へ、田村清顕は岩瀬郡・安積郡へと侵攻を開始しました。

戦況は二転三転し、結城義親の降伏によって佐竹氏有利に進みますが、田村清顕が蘆名陣営に転じたことで状況は逆転します。しかし、結城義親が佐竹氏の傘下に入ると再び戦況は一変。田村清顕は佐竹氏との戦いを続けながら、蘆名氏との戦いも開始します。その間、佐竹氏と蘆名氏は和睦し、田村氏に従属していた大内定綱が反旗を翻し、二本松義継も田村氏との関係を断絶。佐竹氏を盟主とする連合が結成され、孤立した田村氏は伊達輝宗に助けを求め、田村清顕の娘・愛姫と伊達輝宗の嫡男・政宗との婚姻が成立します。

合戦の経過：激戦と和睦

天正8年閏3月、佐竹義重は田村清顕を攻撃するために出陣。蘆名盛隆（盛氏の養子）ら連合する諸大名もこれに応じます。しかし、佐竹義重は関東の北条氏政とも戦っており、すぐに撤退。蘆名盛氏が病死したこともあり、大きな衝突は起きませんでした。しかし、7月に田村側が二階堂領の篠川城を挑発したことをきっかけに、蘆名盛隆は進軍を決断。二階堂・石川連合軍は御代田城を攻撃し、蘆名軍は郡山近郊の富田に進出します。しかし、攻撃は進まず、篠川城が逆に攻められるなど、連合軍は不利な状況に陥ります。

天正9年に入ると、佐竹義重自らが出陣し、御代田城を包囲。籠城戦は2か月に及びました。この状況を見た伊達輝宗は和議の仲介に乗り出し、結城晴朝や相馬義胤を誘い、蘆名盛隆や田村清顕を説得。4月に両者を和睦させます。田村軍が占領していた今泉城と引き換えに御代田城の割譲は避けられましたが、岩瀬郡と田村郡の一部を二階堂氏や蘆名氏に割譲させられ、田村氏側の敗北となりました。

合戦の影響：奥州の勢力変動

御代田合戦における佐竹義重の台頭は、奥州に大きな衝撃を与えました。甲斐の武田勝頼が佐竹義重を「奥州一統」を果たしたと評価する書状を送ったほどです。佐竹氏は会津を訪問し、蘆名盛隆らと連携を強化しました。これにより、会津・仙道・海道の陸奥南部地域では佐竹氏主導の地域統合が進展しました。

しかし、この勢力拡大は、仙道の最北部を本拠地とする伊達氏にとっては脅威でした。伊達輝宗の後を継いだ政宗は、妻の実家である田村氏を援けることで佐竹氏の北上に対抗します。その結果、伊達氏と佐竹連合勢力の間で、人取橋の戦い・郡山合戦・摺上原の戦いといった激戦が繰り広げられ、最終的に伊達氏が勝利し、佐竹氏の「奥州一統」からわずか8年で、今度は伊達政宗による「奥州一統」へと取って代わることになったのです。

御代田合戦は、単なる局地的な戦いではなく、奥州の勢力図を大きく変動させた重要な転換点でした。佐竹氏の台頭と伊達氏の勃興という、その後の歴史を左右する出来事の出発点となったのです。

参考文献
* 垣内和孝『伊達政宗と南奥の戦国時代』（吉川弘文館、2017年） ISBN 978-4-642-02938-4

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