郡山合戦

郡山合戦の概要

郡山合戦は、天正16年（1588年）2月から7月にかけて、安積郡の郡山城および窪田城一帯を舞台に繰り広げられた、伊達政宗軍と蘆名義広・相馬義胤連合軍との間で発生した一連の戦闘の総称です。この戦いは、当初は蘆名氏が主導していましたが、田村氏の混乱に乗じた相馬氏の侵攻以降、伊達氏との激しい攻防戦へと発展しました。

合戦の背景

天正15年（1587年）、佐竹義重の子である蘆名義広が蘆名氏の当主となると、蘆名氏は伊達氏に対し積極的な攻勢に転じました。同年には、数度にわたり苗代田城への攻撃を仕掛け、伊達・田村両氏の分断と二本松攻略を狙いました。

蘆名義広の攻勢（2月～4月）

天正16年（1588年）2月、伊達政宗が大崎氏の内紛に介入して敗北すると、蘆名義広はこれを好機と捉え、大内定綱を先鋒とする4000の兵を伊達領に進軍させました。大内定綱は苗代田城を攻略後、郡山城、窪田城、高倉城、本宮城を次々と攻撃しました。伊達領南方の抑えを担っていた二本松城主・伊達成実は、片倉景綱や白石宗実からの援軍を得ても兵力はわずか600人程度でしたが、2ヶ月間もの間、蘆名軍の猛攻を耐え抜きました。

しかし、北方では最上義光が伊達領内を攻略し、小手森城主の石川光昌が相馬氏に寝返ったため、政宗は相馬勢への対応を余儀なくされ、南方戦線への援軍を送ることができませんでした。この状況を打開するため、成実は政宗に、大内定綱に伊達郡内の所領を与える旨の判物を取り付けさせ、定綱を伊達方に寝返らせることに成功しました。当時、蘆名家では、義広に従って佐竹家から来た新参者と、譜代の家臣団との間で対立が激化していたことも、定綱の寝返りを後押ししました。4月18日、蘆名勢は離反した定綱と伊達勢を討つべく本宮城に攻め寄せましたが、定綱率いる1000余の兵に打ち破られ敗走しました。

郡山・窪田での両軍対峙（5月～7月）

5月22日、政宗は自ら兵を率いて小手森城の攻撃を開始しましたが、天候の悪化により一旦大森城に退きました。その後、相馬義胤は田村清顕の死後、伊達派と相馬派に分かれて混乱していた田村氏の所領を確保するため三春城へ向かいましたが、田村家中の伊達派に阻まれ入城できませんでした。相馬勢の撤退後、政宗は宮森城に陣を構え、再び小手森城攻略に乗り出しました。閏5月16日には小手森城が陥落し、石川光昌は相馬領へと逃走しました。その後、大倉城、月山、百目木、石沢の諸城が次々と陥落し、相馬氏の東安達方面の戦線は崩壊しました。窮地に陥った義胤は、佐竹義重、蘆名義広、岩城常隆に救援を要請しました。佐竹・蘆名の両氏は直ちにこれに応じましたが、田村清顕の存命中から田村領に侵攻していた岩城常隆は、義胤の三春入城に反対し援軍を拒否しました。

6月に入ると、佐竹・蘆名連合軍は郡山方面へ兵を進めました。これは、本宮方面への侵攻を予想していた政宗の思惑を裏切るものでした。政宗も郡山へ救援に向かい、田村氏からも援軍が駆けつけました。6月12日、郡山・窪田両城で両軍が対峙し、砦を築いて40日間にわたる小競り合いを繰り返しました。

伊達勢は兵数で圧倒的に不利でしたが、伊達成実が山王山に構築した堅固な陣所を連合軍は落とすことができませんでした。また、阿武隈川沿いの篠川城が伊達側にあったため、連合軍は背後に敵勢力を抱えた状態で戦わざるを得ませんでした。昼夜を問わず激しい銃撃戦が繰り広げられました。しかし、最上氏や大崎氏との抗争が継続していた政宗は、兵力を集中できず、次第に郡山城への連絡が困難になりました。戦況不利を悟った政宗は、岩城氏に和平交渉を依頼しました。

岩城氏は南奥のほとんどの勢力がこの戦に関与していることを危惧していたため、これに応じ、7月2日には岩城氏の使者が伊達陣中に到着しました。その後、蘆名氏との所領の画定で交渉は難航しましたが、7月16日には佐竹氏との和議が成立し、18日には蘆名氏との和議も成立しました。21日、佐竹軍と伊達軍が撤退し、戦いは終結しました。

戦後

8月5日、政宗は三春城に入城し、愛姫の従弟である田村宗顕を田村氏の当主として擁立しました。この一連の合戦は、伊達氏の勝利に終わりました。しかし、この戦いは豊臣秀吉による惣無事令を無視したものであったため、奥州仕置の際、政宗がこの合戦以降に獲得した安積、岩瀬、白河など8郡は没収されました。

この合戦は、人取橋の戦いから3年間にも及ぶ連敗を止めたことで、伊達氏が拡大に転じるきっかけとなりました。しかし、惣無事令に違反したため、伊達氏は後に領土を没収されることになります。

補足

岩城常隆が仲介に入った背景には、田村領が義胤または政宗の手に渡るのを阻止する意図がありました。しかし、義胤が三春城を諦め、代わりに政宗が三春城に入ったことで、岩城氏の目論見は崩れることになりました。

また、城郭研究では、この合戦で野戦築城が広く活用されていたことが指摘されています。伊達軍と連合軍が対陣し、相互に陣地を形成したことが長期戦につながったと考えられます。

参考文献

垣内和孝「郡山合戦にみる伊達政宗の境目認識」『伊達政宗と南奥の戦国時代』（吉川弘文館、2017年）
小林清治『政宗の和戦』（第2版）吉川弘文館〈伊達政宗の研究〉、2008年。
泉田邦彦、今泉徹、坂本正仁、柴裕之、関周一、高橋修、中根正人、森木悠介 著、佐々木倫郎、千葉篤志 編『戦国佐竹氏研究の最前線』（初版）山川出版社、2021年

関連項目

磨上原の戦い

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