御側御用取次

御側御用取次：将軍の影で幕府を動かす秘めたる力

御側御用取次は、江戸幕府において将軍に最も近い存在として君臨した役職です。将軍の側近として、政策決定から情報収集、人事といった幕府運営のあらゆる側面に深く関わっていました。その権限と影響力は絶大で、幕府政治の陰に大きな力を行使したと言えるでしょう。

職務と権限：将軍の意志を具現化する者たち

御側御用取次の主な職務は、将軍と老中以下の役人との連絡・調整、将軍への政策・人事に関する助言、そして将軍への情報提供でした。彼らは江戸城中奥の談事部屋を詰所とし、日勤で職務に当たっていました。宿直勤務を行う側衆とは異なり、常に将軍の側近として活動していた点が特徴です。

彼らの権限は、単なる伝達役を超えていました。側衆が決定事項の事務処理を担うのに対し、御側御用取次は未決事項の立案・審議にも深く関与。場合によっては、将軍に相談することなく老中に指示を出すこともあったと言われています。これは、将軍の絶対的な信頼を得ていたからこそ可能なことであり、彼らの権力の大きさを示す証左でしょう。また、目安箱の取り扱い、御庭番の管理といった重要な任務も担っていました。

成立と変遷：将軍の信頼が全て

御側御用取次の起源は、徳川吉宗の時代まで遡ります。吉宗が将軍に就任した際、紀州藩士3名が側衆に採用され、そのうち2名が申次役に任じられたことが始まりです。定員は3名とされましたが、実際には1名から5名程度の者が務めており、2名か3名が在職するのが一般的でした。

御側御用取次に任命される者は、若くから将軍と親しく行動を共にしてきた者の中から選ばれることが多かったです。これは、将軍専制を支える上で、絶対的な信頼と個人的な忠誠心が求められたためです。家禄は2000石以上の中・下級幕臣が中心でしたが、側衆に比べて格段に信頼が厚いため、加増されるケースが多く見られました。就任した46名中、実に2割にあたる9名が万石以上の大名となり、その中には老中や若年寄に昇進した者も含まれています。

歴代御側御用取次：幕府政治を彩る面々

御側御用取次には、多くの著名な人物が名を連ねています。例えば、田沼意次や稲葉正明といった、幕府政治に大きな影響を与えた人物も、この役職を経験しています。彼らの多くは、将軍の側近として政治の中枢で活躍し、幕府の政策や人事にも大きな影響を与えました。以下に、一部の歴代御側御用取次とその在職期間を挙げます。(※詳細な一覧は本文参照)

小笠原胤次
有馬氏倫
加納久通
小笠原政登
藪忠通
大岡忠光
高井信房
田沼意次
稲葉正明
松平康郷
水野忠友
…以下多数

まとめ：幕府政治における重要な一端

御側御用取次は、江戸幕府において将軍の側近として重要な役割を担い、幕府政治に大きな影響を与えた役職でした。彼らの存在は、将軍の専制を支え、幕府運営の効率化に貢献した一方で、その権力の大きさは、時に政治の歪みを生む可能性も秘めていました。将軍の絶対的な信頼と個人的な忠誠心を土台としたこの役職は、江戸幕府の政治構造を理解する上で欠かせない要素と言えるでしょう。彼らの活動は、幕府政治の表舞台には現れにくいものの、その影で幕府を動かす大きな力であったのです。

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