稲葉正明

稲葉正明

稲葉正明（いなば まさあき/まさあきら）は、江戸時代中期から後期にかけて活躍した旗本であり、後に安房館山藩の初代藩主となった人物です。その生涯は、幕府の要職を歴任する中で、政治情勢の変動に翻弄された波乱に満ちたものでした。

生い立ちと旗本としてのキャリア

享保8年（1723年）、稲葉正明は山城淀藩主であった稲葉正親の三男として生を受けました。当初は分家を継いでいた次兄・正福の養子となり、享保20年（1735年）にその家督を継ぎ、3000石の旗本となりました。元文2年（1737年）には、徳川家治の小姓に抜擢され、従五位下・越中守に叙任されるなど、順調なキャリアを歩み始めます。

その後、宝暦5年（1755年）には小姓組番頭格（御側御用取次見習）に任じられ、さらに御側御用取次など、幕府の要職を歴任しました。これらの役職を通じて、幕府の中枢で重要な役割を担うようになります。

田沼時代と館山藩主への昇進

田沼意次が幕政を主導する時代に入ると、稲葉正明は田沼意次に同調し、その政治的影響力を背景に急速に地位を向上させます。明和6年（1769年）には上総・常陸国内で2000石を加増され、安永6年（1777年）には安房国内でさらに2000石を加増されました。そして、天明元年（1781年）には、安房・上総国内で3000石を加増され、合計1万石の大名となり、安房館山藩の初代藩主となるという、大きな転換期を迎えました。

さらに、天明4年（1784年）には越前守に叙任され、天明5年（1785年）には安房・上総国内で3000石を加増され、最終的に1万3000石の大名となりました。このように、田沼時代の恩恵を受け、幕府内での地位を確立していきました。

田沼失脚後の没落と隠居

しかし、天明6年（1786年）に徳川家治が死去し、田沼意次が失脚すると、稲葉正明の運命も大きく変わります。田沼派の排除を進める松平定信によって、稲葉正明は3000石を減知され、屋敷を召し上げられるという厳しい処分を受けました。さらに、御側御用取次の役職も罷免され、幕府の中枢から完全に排除されてしまいました。これは、田沼派に属していたことによる大きな失脚でした。しかし、安房館山藩稲葉家の存続は許され、寛政元年（1789年）には家督を四男の正武に譲り、隠居しました。その後、寛政5年（1793年）に71歳でその生涯を閉じました。

系譜

実父: 稲葉正親（山城淀藩主）
養父: 稲葉正福（旗本）
正室: 戸田氏房の養女（戸田定浩の娘）
子女:
稲葉正令（長男）
堀正賞
* 稲葉正武（四男）

まとめ

稲葉正明は、旗本から大名へと地位を上げ、一時は幕府の中枢で重要な役割を担いましたが、政治情勢の変化によって失脚するという、波乱に満ちた生涯を送りました。その人生は、江戸時代後期の政治変動を象徴する出来事の一つとして、歴史にその名を刻んでいます。

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