御勅使川

御勅使川：暴れ川との戦いの歴史

御勅使川（みだいがわ）は、山梨県の甲府盆地西部を流れる富士川水系の一級河川です。その名は、かつて大水が出たことによる「水出川」という説や、古代に水害が発生した際、朝廷からの勅使が下向したことに由来するとも言われています。地元では「みでい」とも呼ばれ親しまれてきました。

地理

御勅使川は、山梨県西端の南巨摩郡早川町と南アルプス市の境に位置する巨摩山地のドノコヤ峠東麓に源を発します。そこから北へ流れ、山間部でV字谷を形成。金山沢川と合流し東へ向きを変え、甲府盆地西部に広大な扇状地（御勅使川扇状地）を形成します。韮崎市と南アルプス市の境界を流れ、割羽沢川を合わせ、双田橋付近で釜無川に合流します。

流路の変遷と水害の歴史

御勅使川は、その歴史の中で幾度となく流路を変えてきました。確認されているだけでも、最も北に位置する現在の本流路のほか、前御勅使川、御勅使川南流路、下今井流路、十日市場流路の5本の旧河道が存在します。古代から洪水を繰り返し、増水時には釜無川を押し流し、盆地一帯にまで被害を及ぼしました。

流域の考古遺跡の分布状況から、かつては氾濫原への定住が遅れていたと考えられていましたが、近年の発掘調査で百々遺跡などの遺跡群が発見され、流路変遷と遺跡の埋没原因に関する研究が進められています。最も古い下今井流路は縄文時代晩期から弥生時代前期のもので、その後も弥生後期から古墳時代後期の十日市場流路、奈良・平安時代の南流路へと移り変わってきました。15世紀から16世紀初頭には大氾濫が発生し、南流路が埋没。中世には前流路と新流路（現流路）の二つが本流となりました。この大氾濫によって堆積した砂礫層は、近世以降に「原七郷」と呼ばれる干魃地帯を生み出す原因となりました。

治水への取り組み

825年には大洪水が発生し、甲斐国司が勅使下向を要請したという記録が残っています。沿岸には八田牧という荘園が開発され、左岸の割羽沢川一帯には甲斐源氏の一族である甘利氏が拠点を築きました。

戦国時代には、御勅使堤防が築造され、石積出や堀切などの治水施設が設けられました。釜無川合流地点の十六石、白根将棋頭、竜岡将棋頭といった分流堤防遺構も築かれました。これらの治水事業は、武田信玄によって主導されたと考えられています。信玄は、御勅使川の流路を現在の流路へ移し、竜王の高岩にぶつけて水勢を弱め、釜無川の流れを固定化しようとしました。ただし、近年の研究では、御勅使川の現流路は自然に形成された可能性も指摘されています。

江戸時代にも水害が頻発し、堤防の決壊と修復が繰り返されました。1653年には堤防が決壊し、西郡一帯に被害が及んだため、流域の領民に修復普請が課せられました。明治時代にも大洪水が発生し、盆地中央部にまで被害が及んだため、将棋頭から徳島堰まで石堤が築かれました。切り離された前御勅川流路は堰き止められ、1930年には四間道路が築かれました。

これらの治水遺構のうち、将棋頭と石積出は、「御勅使川旧堤防（将棋頭・石積出）」として2003年に国の史跡に指定されています。近年行われた調査では、断裂している堤防の一部が新たに確認されています。

昭和天皇は戦後巡幸の際、御勅使川の砂防工事現場を視察されました。

砂礫を運ぶ川

御勅使川の河川敷は大量の砂礫で埋め尽くされています。これは、源流域の地層が崩れやすい御坂層で構成されているためです。そのため、本流には大規模な砂防堰堤が連続して築かれており、支流でも治山・砂防工事が古くから行われています。戦後、川の両岸の砂礫地帯は砂利採取場となり、その跡地は御勅使南公園などとして再開発されています。2003年には、3ヶ所の砂防堰堤が土木学会選奨土木遺産に選ばれました。

御勅使川は、人々の生活を脅かす暴れ川でありながら、治水技術の発展に貢献し、流域の景観を形成してきた川なのです。

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