御手洗 (呉市)

瀬戸内海の港町、御手洗（みたらい）

広島県呉市に属する大崎下島の東端に位置する御手洗は、瀬戸内海に浮かぶ風光明媚な港町です。1994年には、その歴史的な町並みが評価され、重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。

地理

御手洗は、芸予諸島の一つである大崎下島の東端に位置し、御手洗港を中心に町並みが広がっています。広島県道355号大崎下島循環線が港を取り囲むように走り、その背後に家々が密集しています。北西には大長地区があり、東側は愛媛県今治市の岡村島に接しており、安芸灘オレンジラインで結ばれています。また、安芸灘とびしま海道を通じて呉市本土とも陸続きになっています。

沿革

御手洗の地名の由来には、いくつかの説があります。

神功皇后が三韓征伐の際にこの地で手を洗ったという説
菅原道真が大宰府へ左遷される際に立ち寄り、天神山の麓で手を洗い祈ったという説
平清盛が上洛の際に嵐に遭い、観音様に祈って鎮まったことから御手洗と名付けたという説

中世には、御手洗は港としてではなく、軍事的な拠点があったと推測されています。来島村上氏（村上水軍）がこの地にあった「海関」で警護にあたっていたとされています。戦国時代には、大内氏と大山祇神社大祝氏が御手洗沖で合戦を繰り広げました。天正13年（1585年）の四国攻めの際には、加藤清正がこの地に前線基地を設けたという伝承も残っています。

交易港としての成立

江戸時代に入り、瀬戸内海の中央部を航行する「沖乗り」ルートが開発されると、御手洗は風待ち・潮待ちの港として重要な役割を担うようになりました。元々この島の主要港は大長でしたが、大型廻船の寄港には不向きでした。御手洗は風待ち潮待ちとして絶好の地であるため船が寄港するようになり、寛文6年（1666年）に広島藩が港を整備し、港町としての歴史が始まりました。

発展

寛文12年（1672年）に西廻海運が確立すると、御手洗は北前船などの廻船が寄港するようになり、広島藩の米取引の拠点としても発展しました。18世紀頃から町は急速に発展し、埋め立てによって港が拡大。“中国第一の港”と自負するほどになりました。豪商の誕生や文人墨客との交流により文化的に成熟し、俳諧が盛んになり、花街も形成されました。

幕末には、薩摩藩と広島藩の密貿易「芸薩交易」の拠点となり、倒幕の密約「御手洗条約」が結ばれるなど、歴史の舞台ともなりました。

近代以降

明治時代以降、汽帆船や鉄道の登場により、御手洗の港としての役割は低下し、衰退していきました。しかし、経済成長期の開発から取り残されたことが幸いし、江戸時代の町並みがそのまま残されることとなりました。1991年の台風被害を契機に、町並み保存活動が始まり、1994年に重要伝統的建造物群保存地区に選定されました。

町並み

御手洗の町並みは、狭い土地に埋め立てを繰り返して拡大した港町特有のものです。大小の商家や茶屋、船宿、神社仏閣が立ち並び、江戸時代に整備された波止や雁木などの港湾施設、網の目のように張り巡らされた道が特徴的です。町屋は切妻造・桟瓦葺が多く、明治期以降のモダン建築も点在しています。漆喰やなまこ壁をあしらった豪邸は、宝暦9年（1759年）の大火以降、火事対策として普及しました。

名所・史跡

恵美須神社：県重要文化財。寛文6年（1666年）創建と推定される島嶼部の小規模神社
住吉神社：県重要文化財。文政11年（1828年）建立の住吉造
若胡子屋跡：県史跡。御手洗最大の茶屋跡
七卿落遺跡：県史跡。七卿落ちの五卿が宿泊した屋敷跡
船宿（三軒長屋）：市有形文化財。文政年間に建てられた船宿
旧柴屋住宅（御手洗町並み保存センター）：市有形文化財。伊能忠敬が宿泊した場所
旧金子家住宅：市有形文化財。御手洗条約の舞台
満舟寺：平清盛が建立したと伝わる草庵が起源
千砂子波止・高燈籠：江戸時代に築かれた波止場と高燈籠
御手洗天満宮：菅原道真を祀る神社
乙女座：昭和初期のモダン建築の映画館
大東寺：大東亜戦争にちなんで名付けられた寺
歴史の見える丘公園：御手洗の町並みを一望できる公園
おいらん公園：若胡子屋の芸妓の墓がある公園

文化

御手洗の櫓祭：7月下旬に行われる三社祭り

作品・ロケ地

御手洗は、映画やドラマのロケ地としても知られています。

男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎
火の魚
旅の贈りもの 0:00発
たまゆら
ももへの手紙
テレビ朝日開局55周年記念 黒澤明ドラマスペシャル 野良犬
オランジーナ CM
STU48 5thシングル『思い出せる恋をしよう』MV
ドライブ・マイ・カー
『Cheers!デリシャスパーティ♡プリキュア』MV

交通

バス：とびしまライナー、御手洗港バス停下車
船：しまなみ海運、竹原港から高速艇で大長港下船、徒歩約15分
* 車：広島呉道路呉ICから安芸灘大橋有料道路経由、約1時間10分

御手洗は、歴史的な町並みと美しい自然が調和した魅力的な場所です。ぜひ一度、足を運んでみてください。

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