西廻海運

西廻海運とは

西廻海運は、江戸時代前期に整備された、日本海沿岸を西回りに航行する海上輸送路です。酒田から佐渡、能登、下関などを経て大阪に至り、さらに紀伊半島を迂回して江戸へと至るルートで、主に米などの物資輸送に利用されました。

西廻海運成立の背景

江戸時代以前から日本海と瀬戸内海での海運は行われていましたが、江戸時代に入ると、鳥取藩や加賀藩が大阪への廻米を始めました。万治2年（1659年）には、出羽国の幕領米が酒田港から西廻りで江戸へ送られています。寛文11年（1671年）、河村瑞賢は幕府から出羽国の幕領米の江戸廻米を命じられました。当時、東廻海運も開通していましたが、瑞賢は距離が倍以上になるものの安全な西廻りを選びました。彼は事前に航路の調査を行い、寄港地の選定や番所の設置など、輸送の安全性を高めるための改革を行いました。

河村瑞賢による改革

瑞賢は従来の商人請負による廻米を改め、幕府が直接船を雇う方式にしました。北国船ではなく、東瀬戸内海の船と船頭を選びました。また、酒田での米の保管方法を改善し、幕府専用の米蔵を設置しました。川舟運賃も幕府負担とし、低運賃化を図りました。これにより、商人資本を排除した官営輸送が実現しましたが、農民の負担が増加する側面もありました。

輸送体制の刷新

幕府は、廻米専用の船を徴用し、「官幟」を掲げさせました。これにより、入出港の優先権や入港税の免除などの優遇策が与えられました。また、沿線の諸侯にも御城米船の保護を命じました。寄港地には立務場を置き、積載量の検査を徹底させました。乗組員の食料米は余分に買い込ませ、余った分は乗組員の収入としました。ただし、緊急時には食料米から海に投棄するよう命じました。また、船内での賭博を禁止し、安全な航行を促しました。

航路の安全対策

危険な下関港には水先案内船を配備し、鳥羽港口の菅島では烽火を上げて目標としました。酒田や寄港地、江戸には手代を置き、管理体制を整えました。

西廻海運の寄港地

主な寄港地は以下の通りです。

酒田 ⇒ 佐渡小木 ⇒ 能登福浦 ⇒ 但馬柴山 ⇒ 石見温泉津 ⇒ 長門下関 ⇒ 摂津大坂 ⇒ 紀伊大島 ⇒ 伊勢方座 ⇒ 志摩畦乗 ⇒ 伊豆下田 ⇒ 江戸

西廻海運の影響

この輸送体系の確立により、海上輸送の安全性が向上し、米の輸送は幕府の管理下に置かれました。輸送経費も削減され、大阪の市場発展に大きく貢献しました。また、奥羽諸藩の蔵米輸送もこの方式を参考にされるようになり、従来琵琶湖を経由していた日本海側からの上方廻米も、西廻りルートが基本となりました。これにより、敦賀や小湊を経由するルートは衰退し、大阪の中央市場としての重要性が増しました。瀬戸内海の廻船が日本海に進出するきっかけにもなりました。

まとめ

西廻海運は、江戸時代の物流を大きく変えた革新的な輸送システムでした。河村瑞賢の改革によって、安全かつ効率的な海上輸送が実現し、江戸幕府の財政基盤を支える重要な役割を果たしました。また、大阪を中心とする経済圏の発展にも大きく貢献し、日本の歴史に大きな足跡を残しました。

もう一度検索