御用金 (映画)

御用金：時代劇映画史に名を刻む傑作

1969年、日本の映画界に新たな歴史が刻まれた。フジテレビが初めて製作した劇場用映画『御用金』である。五社英雄監督、仲代達矢主演による本作は、単なる時代劇の枠を超え、その製作過程から公開後の影響まで、多くの話題を呼び、日本の映画史に重要な足跡を残した作品と言えるだろう。

パナビジョン方式の採用と製作体制

『御用金』は、日本映画では初めてパナビジョン方式を採用した作品である。これは、当時ハリウッド映画で主流になりつつあったワイドスクリーン撮影技術で、よりダイナミックな映像表現を可能にした。この技術的挑戦に加え、本作の製作体制も画期的だった。フジテレビがテレビ局として初めて劇場用映画製作に参入し、東京映画と提携して製作されたのだ。この大胆な試みは、テレビ局による映画製作という新たな道を切り開くこととなった。

キャストと撮影：三船敏郎降板と中村錦之助の代役

主演を務めた仲代達矢は、本作で圧倒的な存在感を示した。一方、脇坂孫兵衛に協力する藤巻左門役には、当初三船敏郎がキャスティングされていた。しかし、撮影中のトラブルにより三船は降板することとなった。仲代との確執が原因とされるこの出来事は、映画業界に大きな衝撃を与えた。

三船降板の背景には、過酷な撮影環境、俳優同士の衝突、そして三船自身の体調不良などが複雑に絡み合っていたようだ。真冬の極寒の下北半島での長期ロケは、出演者、スタッフ双方に大きな負担をかけた。その中で発生した仲代と三船の口論は、三船の降板という事態を引き起こした。

三船の降板によって映画製作は危機に瀕したものの、仲代は責任を感じ、自ら製作費の返済を申し出るほどの決意を示した。この事態を救ったのは、仲代の友人であった中村錦之助だった。彼は三船の代役を引き受け、撮影を継続することに成功した。

ストーリー：御用金と村人虐殺の謎

天保2年、越前国鯖井藩の漁村で、30名以上の住民が突如として姿を消す「神隠し」事件が発生する。3年後、浪人となった脇坂孫兵衛は、この事件の真相を追うことになる。

実は「神隠し」とは、藩の家老・六郷帯刀による村人虐殺だった。佐渡島から運ばれる御用金を横領するために、真相を知る村人全員を殺害したのだ。孫兵衛は、かつて帯刀と共謀して御用金を奪う計画に加わっていたが、村人虐殺には反対していた。

物語は、御用金を巡る陰謀、孫兵衛と帯刀の対決、そして黒崎村の生き残りの女性おりはとの出会いを軸に展開する。孫兵衛は幕府の隠密である藤巻左門の協力を得つつも、帯刀率いる藩士たちと壮絶な戦いを繰り広げる。

衝撃的なラストシーン：雪中の決闘

クライマックスは、孫兵衛と帯刀による雪中の決闘だ。壮絶な戦いの末、孫兵衛は勝利する。しかし、その勝利は、彼自身の武士への失望と、新たな生き方への決意を象徴するものでもあった。

公開後の反響と影響

『御用金』は、キネマ旬報ベストテンでは31位と評価は低かったものの、興行的には大ヒットを記録した。この成功は、フジテレビの映画製作への本格的な参入を後押しし、同年に五社英雄監督による『人斬り』も製作されるなど、その後の時代劇映画にも大きな影響を与えた。

さらに、海外でも高い評価を受け、アメリカの映画監督や撮影監督にも影響を与えた。1975年には、ハリウッドでリメイク版が製作されている。DVD化もされており、現在でもその作品性は高い評価を受けている。

『御用金』は、五社英雄監督の独特な演出、豪華なキャスト、そして緊迫感あふれるストーリーが一体となった傑作時代劇映画として、日本の映画史にその名を刻み込んでいる。

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