隠密

隠密（おんみつ）とは

隠密とは、主君などから秘密の命令を受け、人知れず情報収集や監視活動を行う者のことです。特に江戸時代には、幕府や諸大名に仕え、諜報活動や監視任務に従事しました。

歴史

隠密の起源は南北朝時代にまで遡りますが、その活動が本格化したのは戦国時代です。この時代、隠密は「忍びの者」すなわち忍者として、戦場で偵察や攪乱などの任務を担いました。戦国時代が終わり江戸時代に入ると、幕府や諸大名は、忍者を隠密として組織に取り込みました。

江戸時代初期には、伊賀や甲賀の忍者が幕府に登用され、隠密としての役割を担いました。しかし、幕府の組織や制度が整備されるにつれて、元忍者の仕事は城内の警備へと変化していきました。

その後、幕府では、3代将軍家光の時代に、御側配下の監察機構が創設され、8代将軍吉宗の時代には、御側御用取次配下の「御庭番」が設置されました。これらの機関は、将軍直属の情報機関として、隠密活動を行いました。また、町奉行の同心が行う江戸市中の風説を調査する「隠密廻り」も存在しました。

徳川幕藩体制下の隠密活動

寛永12年（1635年）、徳川家光は、御側の中根正盛に監察権限を与え、将軍直属の監察機構を創設しました。正盛は、配下の与力22名を国目付として諸国に派遣し、諜報活動を行わせました。正盛は、与力を通して全国に情報網を張り巡らせ、幕府の政治運営に活用しました。

寛永14年（1637年）の島原の乱では、甲賀衆が松平信綱の陣に参陣を願い出ました。しかし、集団での参陣は認められず、10名のみが随行を許されました。彼らは、ゲリラ戦ではなく、城までの距離や沼の深さ、塀の高さなどの隠密活動を命じられ、敵陣の内部を偵察しました。しかし、活躍もむなしく、戦後に仕官することはできませんでした。

慶安4年（1651年）の慶安の変では、老中・松平信綱と大目付・中根正盛が隠密集団を活用して、紀州藩主・徳川頼宣を失脚させました。この事件では、隠密の情報網が、幕府内の権力闘争に利用されたことがわかります。

徳川吉宗は、紀州藩から連れてきた伊賀者を改編し、御庭番として将軍直属の諜報機関にしました。御庭番は、表向きは江戸城の庭の管理をする役職でしたが、実際には隠密活動に従事し、将軍の耳目を集める役割を果たしました。

江戸の南北町奉行所には、隠密廻り同心が2名ずつ所属していました。彼らは、町奉行の命令を受け、市中に潜入して情報収集を行いました。隠密廻り同心は、罪人の捕縛などには関わらず、常に身分を隠して活動していました。

その他にも、目付や勘定[[奉行]]の配下の役人などが隠密活動に従事しました。彼らの中には、御庭番出身で歴史に名を残した者もいます。間宮林蔵も、晩年は幕府の隠密となり、竹島事件やシーボルト事件などに関与したとされています。諸藩でも、下級武士などが隠密役に任じられ、領内外の情勢を探らせました。

隠密の役割

隠密は、幕府や諸大名の権力を維持するために重要な役割を果たしました。彼らは、組織の内部や社会の隅々にまで浸透し、その情報網を駆使して権力の中枢を支えました。隠密の活動は、時には政争の具として利用されることもありましたが、幕府や藩の安定に大きく貢献したと言えるでしょう。

関連項目

諜報
忍者
与力
同心

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