循環列車

循環列車とは

循環列車とは、ある一つの駅を出発点とし、複数の異なる鉄道路線を乗り継ぎながら走行し、再び出発した駅、あるいはその駅のごく近くの駅を終着とする運転形態を持つ列車を指します。これは、あらかじめ円状に整備された環状線のみを繰り返し運転する山手線や大阪環状線といった列車とは、その性格や運行ルートの構成において明確に区別されます。

日本における循環列車の歴史と背景

日本の国有鉄道時代、特に戦後復興期から高度経済成長期にかけて、広範な鉄道路線網が全国に張り巡らされていました。この時代、電化されていない区間も多く存在しており、電化・非電化を問わず走行可能な気動車（ディーゼルカー）の特性が非常に重要視されました。循環列車は、この気動車の柔軟性を最大限に活かし、都市と周辺地域を結ぶ、あるいは地方都市間を広範囲にわたって連絡する目的で多数設定されました。特に国鉄の全盛期には、主要幹線からローカル線に至るまで、様々なルートで循環列車が運転されていました。

設定された列車種別

循環列車は、主に輸送需要に応じた様々な種別で運行されていました。具体的には、停車駅を絞って速達性を高めた急行列車や準急列車、そして各駅に停車する普通列車としての設定例が見られます。一方で、最速達列車である特急列車については、特定の区間を最短時間で結ぶという運行目的から、このような複数の路線を乗り継いで一周するような形態での設定はほとんどありませんでした。しかし、1987年の国鉄分割民営化以降、鉄道会社の運行方針や利用状況の変化に伴い、循環列車の設定は全国的に大幅に減少し、現在ではごくわずかな例を除いて見られなくなっています。

運行上の特徴

国鉄時代の循環列車には、運行方向によって列車愛称を変えるという特徴的な例が多く見られました。例えば、あるルートを時計回りに一周する列車には「A」という愛称が付けられ、反時計回りに一周する列車には「B」という別の愛称が与えられるといった具合です。これは、利用者にとって列車の進行方向やルートを分かりやすく示す役割を果たしていました。また、循環列車を運行する上で考慮すべき点として、車両の向きの変化が挙げられます。経路上の特定の駅や地点で進行方向が反転する場合があり、これによって車両編成全体の向きが出発時と異なってしまうことがありました。

かつて運行された代表的な循環列車（急行・準急列車など）

国鉄時代には、地方の主要都市を起点とする様々な循環急行・準急列車が活躍しました。いくつかの代表的な例を紹介します。

「そとやま」・「五葉」：盛岡駅を出発し、山田線、釜石線を経由して花巻駅に至り、東北本線で盛岡駅に戻るルートを一周しました。「そとやま」と「五葉」はそれぞれ逆回りの列車に付けられた愛称です。
「のべやま」・「すわ」：長野駅を起点に、信越本線、小海線、中央本線、篠ノ井線を経由し、信越本線に戻って長野駅に至るルートを一周しました。「のべやま」と「すわ」が逆回りの愛称です。
「しろがね」・「こがね」：名古屋駅を出発し、東海道本線、高山本線、北陸本線、東海道本線を経由して名古屋駅に戻るルートでした。これも逆回りの列車で愛称が分けられていました。
房総地区の循環列車：中央本線新宿駅や総武本線両国駅を発着し、総武本線、内房線、外房線を経て一周するルートで多数の循環列車が運行されました。運行方向や区間によって「なぎさ」「みさき」「内房」「外房」「うち房」「そと房」「うちうみ」「そとうみ」「房総」など、多くの列車愛称が存在しました。例えば、「なぎさ」「みさき」は内房線・外房線を一周する循環列車で、それぞれ逆回りの愛称でした。同じ区間を走りながらも、総武本線〜内房線区間を「内房」「うち房」「うちうみ」、総武本線〜外房線区間を「外房」「そと房」「そとうみ」と区間ごとに愛称が分けられた列車も存在しました。これらの列車は、後のL特急「さざなみ」「わかしお」（これらは循環列車ではありません）のルーツとも言えます。
「ゆのか」：博多駅を起点に、鹿児島本線、日豊本線、久大本線を経て一周する九州地方の循環急行でした。
「アルペン」：季節限定の臨時列車として運行され、大阪駅を出発し、東海道本線、北陸本線、信越本線、篠ノ井線、中央本線、東海道本線を経由して名古屋駅を経て再び大阪駅へ戻るという、広範囲を巡る長大なルートを走行しました。

これらの例に見られるように、循環列車は各地で多様なルートと愛称で運行され、日本の鉄道網を活かしたユニークな列車として親しまれていました。現在ではその多くが廃止されていますが、鉄道史の一頁として記憶されています。

（※本項で挙げた運行ルートは代表的なものであり、運行時期によって細部が異なる場合があります。また、終着駅が出発駅と厳密に一致しない場合や、一周の起点が途中駅となる場合など、様々なバリエーションが存在しました。）

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