徳富一敬

徳富一敬（とくとみかずたか）

徳富一敬（1822年 - 1914年）は、幕末から明治にかけての激動の時代を生きた儒学者、官僚、教育者です。彼は、ジャーナリスト徳富蘇峰、作家徳富蘆花の父としても知られています。号は淇水（きすい）と称しました。

生涯

肥後国（現在の熊本県水俣市）で、地域の有力者である惣庄屋の長男として生まれました。幼少の頃から学問に励み、近藤英助の私塾や藩校時習館で学びました。1842年に父の死により家業を継ぎますが、1845年には横井小楠の門下となり、その薫陶を受けました。小楠は彼を第一の門弟として高く評価していました。

1848年、同じく小楠の門弟であった矢嶋直明の四女、久子と結婚。

1854年に帰郷後、1855年に葦北郡宰属監察に任官。1864年には、勝海舟の使者として坂本龍馬が横井小楠を訪れた際、一敬も同席し、その様子を詳細に記録しました。

維新後の1870年、熊本藩庁で奉行所書記兼録事として熊本に移り、竹崎律次郎と共に藩政改革に尽力しました。廃藩置県後、熊本県典事、白川県七等出仕などを歴任しますが、1873年に病を理由に官職を辞しました。

1879年には県会議員に当選しますが、翌年には病のため辞職。その後は教育者として活動し、1880年に共立学舎で教鞭を執り、長男・徳富蘇峰が開いた大江義塾でも漢学を教えました。

晩年は、蘇峰らと共に東京へ移住。1906年、84歳でキリスト教の洗礼を受けました。これは、徳富家の中で最も遅い入信でしたが、朱子学者としての信念は生涯変わることはありませんでした。

人となり

徳富蘆花は、伯母である竹崎順子の評伝の中で、一敬について触れています。横井小楠は彼を「考えが綿密すぎる」と評し、また、短気を直そうと努力していた様子が描かれています。今中寛司は、これらの記述から、一敬には「自己嫌悪のような内攻性」があったと指摘しています。

家族

父は徳富美信。徳富家は水俣において名家であり、「西の殿様」と称されていました。妻・久子は竹崎順子の妹、矢嶋楫子の姉です。夫妻の間には、蘇峰、夭折した次男、蘆花を含む3男4女が生まれました。娘たちはそれぞれ、山川清房、河田精一、大久保眞次郎、湯浅治郎に嫁ぎました。彼らが育った熊本市大江の家は、現在「徳富記念園」として公開されています。音羽子の子供には久布白落実、初子の子供には湯浅八郎、湯浅十郎、湯浅与三がいます。

墓所

墓は多磨霊園内の徳富家墓所にあります。

徳富一敬は、激動の時代を生き抜き、教育者として、また思想家として、後世に大きな影響を与えました。彼の生涯は、日本の近代化の過程における知識人の苦悩と葛藤を象徴していると言えるでしょう。

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