志賀暁子

志賀暁子 - 波乱万丈の女優人生

志賀 暁子（しが あきこ、1910年 - 1990年）は、昭和初期から戦後にかけて日本の映画界で活躍した女優です。美貌と演技力でスターダムに駆け上がったものの、絶頂期に自身が関わった堕胎事件により有罪判決を受け、その波乱に満ちた生涯は当時の社会に大きな衝撃を与えました。

生い立ちと映画界への波乱の道

京都に生まれた志賀暁子は、高級官僚の父を持つ家庭で育ちました。ピアニストを志す少女でしたが、母との死別や家庭環境の変化を経て、音楽学校への進学を断念。自立のためダンスホールで働き、人気俳優の中野英治と出会います。彼の推薦で帝国キネマと契約し、「城えり子」として映画デビューが決まるも、中野との関係が発覚し、妻である女優・英百合子に撮影所で殴打されるスキャンダルが発生。この騒動でデビューは白紙となり、最初の挫折を味わいます。

再起とスターダム

挫折から立ち直った志賀は、銀座でバー経営を経て新興キネマの専属女優として再出発。1933年、『新しき天』で「志賀暁子」として改めてデビューします。翌1934年には主演作『霧笛』が大ヒットし、一躍スターの座を獲得。片岡千恵蔵の相手役を務めるなど、順調にキャリアを積み上げ、華やかなスター生活を送りました。

絶頂期のスキャンダル：堕胎事件

しかし、栄光の絶頂期に、志賀暁子は過去の出来事によって追いつめられます。1936年、過去に2度行った堕胎が発覚し、逮捕されたのです。これらの妊娠は交際男性との間のものでしたが、いずれも男性側は責任を回避したとされます。

事件は産婆への恐喝事件を端緒に明るみに出ました。スター女優の逮捕はセンセーショナルに報じられ、志賀自身も手記で「映画女優として生きるためのやむを得ない選択だった」と当時の映画界の現実を告白。世間では非難の声が多数を占める中、女性にのみ責任を負わせることへの疑問や同情的な声も上がりました。

裁判では、検事側が女性としての責任を追及した一方、弁護側は当時の社会状況や男性側の問題を訴え、情状酌量を求めました。結果、志賀には懲役2年・執行猶予3年の判決が下されました。この事件は、貞操観念が重んじられた時代において、女性の選択や社会構造について、文壇をも巻き込んだ激しい議論を巻き起こしました。

事件後、そして晩年

執行猶予期間中に映画界に復帰した志賀は、新興キネマ退社後、舞台活動も経験。戦時中も出演を続けましたが、1943年に結婚、一児をもうけます。夫とは病で死別し、戦後はシングルマザーとして上京。生計を支えつつ、1950年代に再び映画に出演しますが、1957年の作品を最後に芸能界を引退しました。

波乱に富んだ自身の人生は、自著『われ過ぎし日に 哀しき女優の告白』に詳しく綴られています。また、後年にはドラマや舞台化もされています。志賀暁子の生涯は、激動の時代を女優として生き抜いた一人の女性の記録であり、当時の社会が抱えていた問題を浮き彫りにする出来事として、今日に伝えられています。

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