忠州の戦い

忠州の戦いは、文禄元年（1592年）4月28日に、現在の忠清北道忠州市に位置する弾琴台付近で起こった、文禄・慶長の役初期における重要な戦闘の一つです。戦場となった地名から「弾琴台の戦い」とも呼ばれます。

戦いの背景

1592年4月に日本軍の侵攻が始まると、朝鮮王朝は北方で女真族との戦いに功績のあった名将、申砬（シン・リプ）に国の命運を託し、彼を三道都巡察使に任命しました。申砬は首都である漢城府（現在のソウル）から約80名の士官を引き連れて忠州へ向かいました。彼には、人望が薄いとの理由から、柳成龍（ユ・ソンニョン）が別途募集した8,000名の兵士が副官である金汝岉（キム・ヨウル）に率いられて先行していました。忠州は、漢江のすぐ南に位置し、日本軍が朝鮮の首都へ進軍する際の重要な中継地点でした。申砬は後から弓の扱いに長けた数千の兵を率いて出発し、忠州へ向かう途中で義勇兵などを加え、最終的に8,000名以上の兵力を集めたと伝えられています。

鳥嶺の放棄

4月26日、申砬は兵を率いて丹山駅に進みました。初期の作戦会議では、多くの将が慶尚道と忠清道の境界にある戦略的要衝、鳥嶺（チョリョン）で日本軍を迎撃すべきだと主張しました。しかし、申砬は兵の一部を残して自ら数騎で偵察に出た後、鳥嶺で先行していた李鎰（イ・イル）が尚州の戦いで敗れたとの報告を受け、意気消沈して帰還しました。彼は忠州への撤退を決定しましたが、副官の金汝岉は「鳥嶺は朝鮮東南部の第一の要害であり、ここで敵を防ぐべきです」と強く諫め、忠州牧使の李宗張（イ・ジョンジャン）もこれを支持しました。しかし、申砬はこれを聞き入れず、「敵は歩兵主体だが、我々は騎兵だ。この山岳地帯は騎兵の運用に適さない。広い野原で戦うべきだ」と主張し、鳥嶺を守る部隊にも撤退を命じ、この天険の要害を放棄させました。

同じ日、日本軍は咸昌と聞慶を占領しました。小西行長は、自ら町に火を放って抵抗した聞慶県監の申吉元（シン・ギルウォン）を捕らえ道案内をさせようとしましたが、拒否されたため斬首しました。日本軍は慎重に鳥嶺に近づき偵察を行いましたが、伏兵もなく、他の山城も無人であることを確認しました。4月27日早朝、日本軍の先鋒隊は聞慶を出発し、約4時間をかけて鳥嶺を通過、午後には丹山駅に到着しました。

申砬は、尚州で敗北した李鎰と面会しました。李鎰は「この敵は以前の女真族とは比較にならない。天険に拠らず広野で戦うのは勝ち目がない。むしろ退却して漢城を防衛すべきです」と再び警告しましたが、申砬は激怒し、本来ならば軍法で斬首すべきところを、敵と戦って罪を償えと命じ、彼の敗残兵や募兵など約6,000名からなる部隊を自軍に加えました。

弾琴台での決戦

4月27日の夕方、親しい士官から日本軍がすでに鳥嶺を越えたとの密報を受けた申砬は、突如として一人城を抜け出し行方不明となりましたが、深夜に黙って帰還しました。翌朝、彼はその士官を虚偽の報告をしたとして斬首し、朝廷には日本軍がまだ尚州城を出ていないと報告しました。しかし実際には、日本軍はわずか十里（約4キロメートル）先の地点ですでに野営していたのです。

4月28日早朝、敵の正確な位置を把握しないまま、申砬は忠州城を出て北西の弾琴台に布陣しました。この場所は北を漢江に、西をその支流である達川（タルチョン）に挟まれ、前面には広大な水田が広がる一方、背後は断崖絶壁となっていました。これは、まさに「背水の陣」であり、退路が断たれた状況でした。新羅時代の土塁跡がある小高い丘でした。

日本軍の小西行長は斥候によって朝鮮軍を発見すると、軍を三隊に分け、三方から攻撃する作戦を立てました。行長率いる中央隊と松浦鎮信（まつうらしげのぶ）率いる右翼隊は山沿いに東へ進み、宗義智（そうよしとし）率いる左翼隊は達川を下るように北上しました。こうして朝鮮軍を三方から包囲し、一斉に火縄銃による集中砲火を浴びせました。

申砬は自軍の弓で応戦しましたが、数千挺もの火縄銃が一斉に発射され、敵を一気に制圧するという日本軍の戦術を十分に理解していませんでした。朝鮮軍の弓隊は混乱し、統制を失って敗走し始めました。申砬は劣勢を覆そうと二度にわたって自ら突撃を敢行しましたが、いずれも日本軍の頑強な抵抗により撃退されました。最終的に軍が大混乱に陥り総崩れとなると、申砬は為す術なく、自ら馬を駆って漢江に身を投じ、自害して果てました。蹴散らされた朝鮮兵は逃げ惑い、漢江は無数の死体で埋め尽くされました。忠州牧使の李宗張やその息子、金汝岉、辺璣（ピョン・ギ）といった諸将も乱戦の中で戦死しました。一方、李鎰は東の山間部に逃げ込み、かろうじて脱出に成功し、敗戦の報を伝えました。日本軍はさらに追撃を行い、約3千人の首級を挙げ、数百人の捕虜を得たと記録されています。朝鮮側の記録では、この戦いで「精兵10万人が大敗した」「全軍が溺死した」「壮士のうち生存者はわずか3人」といった記述も見られます。

戦いのその後と影響

戦いがあった日の夜、忠州城は日本軍によって占領されました。『西征日記』によれば、宗義智が一番乗りを果たしたとされています。日本軍は、先に解放した倭学通事（日本語通訳官）の景応舜（キョン・ウンスン）に手紙を持たせ、朝鮮側の李徳馨（イ・ドクヒョン）と同城で会見したいと申し入れていましたが、日本軍の進撃が早すぎ、会見が実現する前に忠州は陥落しました。李徳馨は会見に応じる意向で忠州へ向かいましたが、落城を知り、景応舜を使者として送ろうとしましたが、景応舜は消息を絶ち、会見は断念されました。

忠州における大敗の報は、間もなく朝鮮国王宣祖（ソンジョ）のもとに届けられました。頼みとしていた申砬の戦死は、宣祖に深い絶望を与えました。さらに、漢城の民衆は恐慌状態に陥り、国王自身が首都を放棄して避難するという事態を招く直接的な引き金となったのです。

評価

申砬がこの戦いで採用した戦略と戦術、特に鳥嶺の放棄については、現代に至るまで多くの議論がなされています。一部には申砬の弁護を試みる韓国人歴史家もいますが、当時から現在まで、多くの将軍や軍事専門家、歴史家によって極めて悪手であったと厳しく評価されています。特に鳥嶺の放棄は、後に援軍として朝鮮に来た明の将軍、李如松（りじょしょう）がこの地形を見て「申総兵は無謀な男だ」と嘆いたことで知られています。西路を進む別の日本軍部隊も存在したため、鳥嶺を守るだけで日本軍の進撃を完全に止められたわけではありませんが、主力部隊が鳥嶺を通過して忠清道に侵入できたのは、朝鮮軍がここで一切の防戦を行わなかったことが大きな要因でした。この申砬の戦略判断が、日本軍がわずか20日という驚異的な速さで漢城府を陥落させることを許した、最大の要因の一つと考えられています。

もう一度検索