性 (文法)

文法的性：世界の言語における名詞の分類

文法的性（grammatical gender）とは、名詞を分類する文法上のカテゴリーであり、名詞とそれに関連する語（形容詞、代名詞、動詞など）の形態変化に影響を与えます。名詞の性と実際の性別が一致するとは限りません。また、類別詞のように文法的な一致を引き起こさない分類とは異なります。

性の一致

名詞の性によって、関連する語の形態が変化する現象を「性の一致」といいます。例えば、ロシア語では動詞の過去形が主語の名詞の性（男性、女性、中性）によって変化します。この他、形容詞、限定詞、数詞なども性の一致を示す場合があります。

性の分類基準

名詞に性を付与する基準は言語によって異なります。大きく分けて、名詞の意味に基づく分類と、名詞の語形に基づく分類があります。

意味による分類

タミル語では、男性と男神を表す名詞は男性名詞、女性と女神を表す名詞は女性名詞、それ以外は中性名詞に分類されます。ほぼ例外なく、意味と性が対応しています。

一方、ザンデ語では、名詞の意味によって性を付与しますが、例外が存在します。男性と女性を表す名詞はそれぞれの性になりますが、動物名詞やその他約80個の名詞は例外的に男性または女性名詞に分類されます。これらの例外には、ザンデの神話に由来するものも僅かにありますが、大部分は説明がつきません。それでも、ザンデ語の性の付与は主に意味に基づいているといえます。

形式による分類

意味的な基準が適用できない場合、名詞の形態論的な特徴や音韻論的な特徴に基づいて性を付与する言語もあります。

形態論による分類

ロシア語では、男性名詞、女性名詞、中性名詞の3つの性がありますが、男性と女性の付与には意味的な基準が用いられます。しかし、性別を持たないものを表す名詞は、意味的には似ていても異なる性が付与される場合があります。この場合、曲用（語尾変化）のタイプが分類基準となります。ロシア語には複数の曲用タイプがあり、各タイプは特定の性と強く関連していますが、意味的な基準が優先されるため、例外も存在します。

音韻論による分類

アファル語では、人間の男性と動物の雄を表す名詞は男性名詞、人間の女性と動物の雌を表す名詞は女性名詞に分類されます。それ以外の名詞は、強勢のある母音で終わる場合は女性名詞、そうでない場合は男性名詞となります。

性の数

グレヴィル・コーベットの調査によると、世界257言語のうち、性のない言語が約半数、2つの性を持つ言語が50、3つの性を持つ言語が26、4つ以上を持つ言語もあります。性を持つ言語はアフリカ、中東、ヨーロッパ、南アジアに多く分布し、太平洋、アジア、シベリアには少ない傾向があります。

各語族における文法的性

印欧語族

印欧祖語は男性、女性、中性の3つの性を持っていましたが、現代の印欧語族では、3つの性を全て残している言語、中性が消失した言語、性をほぼ完全に失った言語など、様々なパターンがあります。例えば、ドイツ語、ロシア語、ラテン語は3つの性を保持していますが、スウェーデン語では男性と女性が合流し共性となっています。英語では性はほぼ消失しており、生物学的性に対応するものや、一部の名詞（船、国名など）や代名詞にのみ見られます。

セム諸語

ヘブライ語やアラビア語などのセム諸語は、原則として男性と女性の2つの性しかありません。名詞の性は大抵のケースで語尾で判別でき、形容詞も修飾する名詞の性に応じて変化します。

コーカサス諸語

コーカサス諸語では、名詞クラスの数が言語によって異なり、4クラスを持つ言語が最も多いです。名詞クラスは名詞そのものには明示されず、動詞、形容詞、代名詞によって示されます。

その他の語族

アルゴンキン語族では活動体と不活動体の2クラス、バントゥー語群では最大22種の名詞クラスがあります。モンゴル語にも男性語・女性語の分類がありますが、これは文法的性とは異なり、母音調和に関連する分類です。

まとめ

文法的性は言語によって多様な様相を示し、その分類基準、性の数、性の一致の有無など、言語の文法体系を理解する上で重要な要素です。本稿では、世界の様々な言語における文法的性の特徴を概観しました。しかし、各言語の文法的性についての詳細な分析には、さらに多くの研究が必要です。

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