怪異談 生きてゐる小平次

怪異談 生きてゐる小平次

『怪異談 生きてゐる小平次』は、1982年に公開された中川信夫監督による日本映画です。ATG（日本アート・シアター・ギルド）が「もう一度1,000万映画」というコンセプトで製作した5本のうちの1本として、鈴木泉三郎の同名戯曲を原作としています。

概要

物語は、幽霊役で名を馳せた役者・小幡小平次が殺され、その後何度も蘇るという怪談をベースにしています。「殺したはずなのに何度でも生き返ってくる」という、どこかシュールな味わいが特徴です。歌舞伎でも定番の演目であり、過去には青柳信雄監督によって映画化もされています。本作は2度目の映画化となります。

独立プロダクション・磯田事務所がATGと提携し、中川信夫監督に白羽の矢が立ちました。かつて怪談映画の名手として知られていた中川監督が選んだのが、この『小平次』だったのです。

撮影は京都の映像京都などの協力のもと、大映京都撮影所をメインに行われました。製作期間はわずか7日間。限られた予算の中、中川監督は出演者を絞り込み、主演の3人以外は登場しないという、三角関係の心理ドラマに焦点を当てました。全編にわたりフィックス・ショット（固定撮影）を使用し、幽明の境を漂うような独特の世界観を創り上げています。

特徴

本作は、16mmフィルムで撮影された後、35mmフィルムにブローアップして劇場公開されました。通常、16mmから35mmへのブローアップにはネガフィルムを介しますが、本作ではその工程を省き、直接35mmプリントを焼くという、当時としては画期的な手法が用いられました。これにより、よりクリアな映像を実現しています。

撮影現場では、中川監督の方針により横文字の使用が禁止され、スタッフは用語の言い換えに苦労したというエピソードも残っています。

あらすじ

物語の舞台は天保13年。緞帳芝居の役者である小平次と、囃子方の太九郎は、いつか名を成そうと野心を抱いていました。太九郎の妻であるおちかを交えた3人は幼馴染でしたが、ある日、小平次はおちかに想いを告げます。おちかは太九郎の子を身ごもっていたものの、身体が弱く出産をためらっていました。小平次は堕胎の方法を教えます。

巡業先で、小平次は太九郎におちかを譲ってほしいと申し出ますが、怒った太九郎に沼に突き落とされ、殺されてしまいます。太九郎は小平次を殺したと思い込み逃げ帰りますが、そこには死んだはずの小平次が再び現れ、おちかを要求します。恐怖と怒りに駆られた太九郎は、おちかを連れて逃避行を続けます。

疲労困憊した太九郎は、小平次が追いかけてくるという妄想に取り憑かれます。賽の河原で、おちかが堕胎した子供の霊を弔っているのを見た太九郎は、子供の父親は小平次ではないかと疑い、おちかを殺そうとします。そこへ、生きていた小平次が現れ、2人は激しく争います。男たちが死んだように動かなくなる傍らで、おちかは静かに佇むのでした。

スタッフ・キャスト

監督・脚本：中川信夫
企画：滝沢一、多賀祥介
原作：鈴木泉三郎
撮影：樋口伊喜夫
* 出演：藤間文彦、石橋正次、宮下順子

評価

本作は、1982年度のキネマ旬報ベストテンで第10位に選ばれました。

まとめ

『怪異談 生きてゐる小平次』は、低予算ながらも中川信夫監督の個性的な演出と、俳優陣の熱演が光る異色の怪談映画です。人間の業やエゴ、そして幽明の境を描いた本作は、今なお多くの映画ファンを魅了し続けています。

もう一度検索