怪盗白頭巾

怪盗白頭巾

『怪盗白頭巾』（かいとうしろずきん）は、映画監督・山中貞雄が手がけた長編劇映画であり、日本のトーキー初期における剣戟映画の代表作の一つです。1935年（昭和10年）に製作され、前篇が同年、後篇が翌1936年（昭和11年）にそれぞれ公開されました。

製作背景

本作は、山中監督が嵐寛寿郎プロダクションから日活京都撮影所へ移籍した時期に制作されました。同じく日活に移籍してきた稲垣浩をはじめとする監督たちの協力を得てメガホンをとっています。原作は「梶原金八」という名義になっていますが、これは山中監督自身、応援監督の稲垣浩、脚本を担当した三村伸太郎、さらには八尋不二、藤井滋司、滝沢英輔、鈴木桃作、萩原遼という総勢8名の共同筆名であることが知られています。脚本執筆は三村伸太郎が担当しました。

公開と仕様

完成した作品は、日活の配給により公開されました。前篇は1935年12月31日に、後篇はその2週間後の1936年1月15日に、東京・浅草の富士館などを主要な封切り館として上映されました。前篇が74分、後篇が64分という、当時の長編としてはボリュームのある構成でした。作品の技術的な側面としては、白黒スタンダードサイズ（アスペクト比1.33:1）で撮影され、モノラル録音によるトーキー作品です。前篇は8巻、1,856メートル、後篇は8巻、1,766メートルとして記録されています。

スタッフとキャスト

本作の制作には以下のスタッフが携わりました。

監督: 山中貞雄
応援監督: 石橋清一（前篇）、稲垣浩（後篇）
原作: 梶原金八
脚本: 三村伸太郎
撮影: 松村禎三
応援撮影: 竹村康和
音楽: 西梧郎

また、当時の日活を代表する俳優陣が出演しています。主なキャストは以下の通りです。

大河内伝次郎 - 雲霧仁左衛門
黒川弥太郎 - 杵住吉五郎
高勢実乗 - 伝右衛門
鳥羽陽之助 - 熊五郎
市川百々之助 - 三次
横山運平 - 柳家老爺利助
花井蘭子 - 其の娘・お照
鬼頭善一郎 - 汐山源斎
清川荘司 - 親分雁九郎
* 磯川勝彦 - 杵住弥兵衛

その他、上田吉二郎、三好文江、衣笠淳子らが出演しました。

フィルムの現存状況

本作の最も残念な点は、その上映用プリントが全篇にわたって現存していないことです。現在、東京国立近代美術館フィルムセンターにもプリントは所蔵されていません。しかしながら、奇跡的に1分にも満たない短いフィルム断片が発見されており、完全に失われたわけではありません。この貴重な断片は、2004年（平成16年）に日活からリリースされた『山中貞雄日活作品集 DVD-BOX』の中に、『磯の源太 抱寝の長脇差』の断片とともに収録され、わずかながらも作品の片鱗をうかがい知ることができます。

山中貞雄監督の作品はその多くが失われており、本作もまたその例に漏れません。しかし、現存する断片や資料から、移籍初期の山中監督が共同制作体制のもとで作り上げた、力強い剣戟映画であったことが推測されます。全篇が失われたことは映画史における大きな損失であり、発見された断片は非常に価値あるものと言えます。

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