恋愛禁制

恋愛禁制

『恋愛禁制』（れんあいきんせい、原題：Das Liebesverbot）は、著名な作曲家リヒャルト・ワーグナーが手がけた全2幕のオペラ作品です。この作品には『パレルモの修道女』（Die Novize von Palermo）という副題もつけられています。ワーグナーがまだマクデブルクで指揮者としての経験を積んでいた時期、1834年に作曲されました。これは、彼のオペラ作品としては2作目にあたります。

作品背景と特徴

本作は、ウィリアム・シェイクスピアの戯曲『尺には尺を』を原作としており、ワーグナー自身が台本を執筆しました。当時のワーグナーは、イタリア風のオペラにも関心を寄せており、その影響が本作にも見られます。特に、この作品は喜劇であり、通常のオペラとは異なり、歌唱部分に加えて台詞による対話が多数含まれるのが特徴です。物語は、厳格な総督が恋愛を一切禁止する法律をシチリアで発布したことから始まる騒動や事件を中心に展開します。

物語の概要

舞台は中世のシチリア。新たに派遣された総督フリードリヒは、都市の風紀を引き締めるべく、恋愛や享楽を一切禁じる厳しい法令を布告します。これによって多くの人々が抑圧されます。若い貴族クラウディオが、この禁を破ったとして死罪を言い渡されると、彼の妹である修道女のイザベラが兄を救うために総督に直訴します。しかし、総督はイザベラの美貌に心を奪われ、兄の命と引き換えに自身の要求を受け入れるよう迫ります。清純なイザベラはこれに激怒し、友人たちの助けを借りて総督に策略を仕掛け、彼の偽善を暴こうとします。恋愛禁止令が敷かれた街に、皮肉にも愛を巡る混乱と駆け引きが巻き起こる様がコミカルに描かれます。

音楽と構成

『恋愛禁制』は全2幕で構成されています。演奏時間は全曲を通して約2時間半とされています（第1幕約90分、第2幕約60分）。音楽は、ワーグナー後期の作品に見られるような楽劇様式とは異なり、アリアや重唱、合唱などが明確に分かれた、より伝統的なオペラの形式に則っています。しかし、既に後の片鱗を思わせるような、劇的な展開を盛り上げる音楽も顔を覗かせます。全体としては、原作の喜劇的な要素を反映した、明るく陽気な雰囲気に満ちています。

楽器編成

オーケストラは標準的な大規模2管編成が用いられています。さらに、舞台上のバンダ（吹奏楽隊）も加わります。

管弦楽:
フルート2、ピッコロ1
オーボエ2
クラリネット2
ファゴット2
ホルン4
トランペット4
トロンボーン3
チューバ（オフィクレイド）1
ティンパニ一対
打楽器: カスタネット、シンバル一対、大太鼓、トライアングル、タンブリン
弦楽五部

バンダ:
ピッコロ2
クラリネット5
ファゴット4
ホルン4
トランペット6
トロンボーン3
打楽器: トライアングル、小太鼓、大太鼓、シンバル一対

登場人物

主要な登場人物と声種は以下の通りです。

シチリア総督フリードリヒ（声種：バリトン）
貴族クラウディオ（声種：テノール）
クラウディオの妹イザベラ（声種：メゾソプラノ）
ルチオ（声種：テノール）
マリアンナ（声種：ソプラノ）
ドレラ（声種：ソプラノ）
ブリゲーラ（声種：バス）
その他

初演

『恋愛禁制』の初演は、作曲から2年後の1836年3月29日、ワーグナーが当時指揮者を務めていたドイツの都市マクデブルクにて行われました。

自筆譜について

この作品の自筆譜は、ワーグナー自身の手によってバイエルン王ルートヴィヒ2世へ献呈された多くの重要な楽譜の一つでした。後に、これらの自筆譜はアドルフ・ヒトラーの所有物となります。第二次世界大戦終結間際に総統地下壕へ持ち込まれたとされており、『リエンツィ』や『妖精』といった他の初期作品の自筆譜と共に、ヒトラーの死以降、今日に至るまでその所在が不明となっています。

『恋愛禁制』は、ワーグナーの創作活動の初期段階を示す作品であり、後の彼の壮大な楽劇とは異なる魅力を持つ、イタリア風の陽気な喜劇オペラとして、その存在意義を占める位置は重要です。

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