恭帝侗

恭帝 楊侗（きょうてい ようどう）

恭帝 楊侗は、隋朝の皇族で、煬帝の孫にあたります。煬帝の崩御後、隋の再興を願う臣下たちによって擁立されましたが、簒奪者である王世充によって皇位を奪われ、命を落としました。その短い生涯は、隋末の混乱期を象徴するものとして語り継がれています。

生涯

楊侗は、元徳太子楊昭の子として生まれました。容姿端麗で、穏やかな性格であったと伝えられています。煬帝の巡幸時には、東都洛陽の留守を任されることが多く、若くしてその才能を認められていました。大業9年（613年）に楊玄感の乱が勃発すると、楊侗は戸部尚書の樊子蓋とともに洛陽の守備にあたり、その功績により高陽郡太守に任じられました。

大業13年（617年）、煬帝が江都に下ると、楊侗は段達、元文都、韋津らとともに洛陽を守りました。洛口倉を拠点とする李密が勢力を拡大し、洛陽に攻勢をかけるようになると、王世充らを派遣して対抗しました。しかし、隋の衰退は明らかであり、洛陽の防衛も困難を極めました。

大業14年（618年）、煬帝が宇文化及らによって殺害されると、楊侗は煬帝の血筋に最も近い存在として、段達らに擁立され、皇帝に即位しました。即位後、楊侗は段達、王世充、元文都らを重用し、彼らに重要な政務を任せました。しかし、この人事が後に楊侗自身を苦しめることになります。

宇文化及が擁立した楊浩が洛陽に迫ると、楊侗はかつての敵であった李密に帰順を促し、宇文化及討伐を命じました。しかし、朝廷内では段達ら「七貴」と呼ばれる重臣たちが権力を争い、内部対立が深刻化していました。元文都らは王世充によって殺害され、皇甫無逸は長安に逃れて唐に帰順しました。これにより、王世充が朝廷の実権を掌握し、楊侗は傀儡と化しました。

王世充は李密を破り、その勢力をさらに拡大すると、自ら鄭王を名乗り、九錫を受けました。もはや楊侗には、王世充を止める力はありませんでした。段達や雲定興らは、楊侗に皇位を王世充に譲るように迫り、楊侗は激しく非難しましたが、王世充は天下が安定したら皇位を返すことを約束し、譲位を承諾させました。

皇泰2年（619年）5月、楊侗は王世充に禅譲し、含涼殿に幽閉され、潞国公となりました。しかし、翌月には宇文儒童や裴仁基らが再び楊侗を擁立しようと企てましたが、露見し、殺害されました。楊侗もまた、王世充によって毒殺を命じられました。死を前に、楊侗は母親に会わせてくれるように懇願しましたが許されず、「生まれ変わっても皇帝の家には生まれ変わらぬように」と言い残し、縊り殺されました。

評価

恭帝楊侗は、隋の皇族として生まれ、煬帝の死後、混乱の中で皇帝に擁立されました。しかし、王世充の簒奪によって皇位を奪われ、短命に終わりました。正史では正統な皇帝とはみなされていませんが、隋の再興を願った人々の希望を背負った人物として、その存在は記憶されています。

参考文献

『隋書』巻五十九 列伝第二十四「煬帝三男伝」
『北史』巻七十一 列伝第五十九「隋宗室諸王伝」
* 宮崎市定「隋恭帝兄弟考」（『隋の煬帝』（中公文庫、1987年）所収）

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