九錫

九錫（きゅうしゃく）とは

九錫とは、中国の漢朝から南北朝時代にかけて、皇帝が臣下に対して授与した九種類の最高の恩賞のことです。「錫」は「賜る」という意味を持ち、臣下への特別な褒美として与えられました。この制度は、単なる恩賞を超え、受ける者の権威を高め、簒奪や禅譲の前段階と見なされることもありました。

九錫の内容

九錫は、通常、皇帝のみが使用を許されるもので構成されており、有徳の諸侯にその使用を許可することで恩賞としました。以下に、その具体的な内容を記します。

1. 車馬：金車や兵車などの特別な車と、8匹の黄色の馬。
2. 衣服：王者が着用する衣服一式。
3. 虎賁（こひん）：皇帝直属の護衛兵。通常300人が与えられました。
4. 楽器：特別な儀式で使用される楽器。
5. 納陛（のうへい）：皇帝に謁見するための宮殿の階段を昇る権利。
6. 朱戸（しゅこ）：朱色に塗られた門。
7. 弓矢：特別な弓と矢のセット。
8. 鈇鉞（ふえつ）：金や銀で飾られた斧。
9. 秬鬯（きょちょう）：黒黍で醸造された特別な酒。

時代や状況によって九錫の内容や順序が異なる場合もありました。

九錫を受けた主な人物

九錫を受けた人物は、その多くが後に皇帝の位を簒奪したり、新たな王朝を建設したりしています。以下はその主な例です。

王莽（おうもう）：前[[漢]]の平帝から九錫を受け、後に新を建国。
曹操（そうそう）：後[[漢]]の献帝から九錫を受け、子の曹丕が曹魏を建国。
司馬昭（しばしょう）：曹魏の元帝から九錫を受け、子の司馬炎が西晋を建国。
劉裕（りゅうゆう）：東晋の恭帝から九錫を受け、南朝宋を建国。
蕭道成（しょうどうせい）：南朝宋の順帝から九錫を受け、南朝斉を建国。
蕭衍（しょうえん）：南朝斉の和帝から九錫を受け、南朝梁を建国。
楊堅（ようけん）：北周の静帝から九錫を受け、隋を建国。
李淵（りえん）：隋の恭帝侑から九錫を受け、唐を建国。

この他にも、多くの人物が九錫を受けていますが、必ずしも簒奪や建国に至ったわけではありません。

九錫を巡る駆け引き

九錫は、権力者にとっては非常に魅力的なものでしたが、同時に危険なものでもありました。そのため、九錫の授受を巡っては様々な駆け引きが行われました。

例えば、後[[漢]]の権臣であった梁冀（りょうき）は九錫を強く望みましたが、司空の反対により実現しませんでした。一方で、司馬懿（しばい）は曹芳から九錫を授けられるよう命じられましたが、これを辞退しています。また、諸葛亮（しょかつりょう）は、九錫を勧める臣下に対し、曹魏を滅ぼした後ならば受けても良いと答えたとされています。

まとめ

九錫は、単なる恩賞ではなく、権力と正当性を示す象徴としての意味合いが強いものでした。そのため、九錫の授受は、しばしば政治的な変動の兆しと見なされ、歴史の転換点となることもありました。九錫の歴史を紐解くことは、中国の権力構造や王朝交代のメカニズムを理解する上で、非常に重要な要素であると言えるでしょう。

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