悲しみの聖母

悲しみの聖母：聖母マリアの悲しみと信心

カトリック教会において、聖母マリアの人生における悲しみを主題とした信心が広く行われています。これは「悲しみの聖母」 (ラテン語: Beata Maria Virgo Perdolens) と呼ばれ、嘆きの聖母、悲しみの御母、慈愛の聖母など、様々な呼び名を持っています。マリア美術の主要なテーマでもあり、9月15日を祝日としています。悲しみの金曜日にも、特別な信心が行われる国もあります。

聖母マリアの七つの悲しみ

「悲しみの聖母」の信心において重要な要素が、聖母マリアの七つの悲しみです。これは、ルカによる福音書に記されたシメオンの預言に基づき、聖母の人生における7つの苦難の出来事を指します。

これらの出来事は、絵画や彫刻などの美術作品にも多く描かれ、信者たちは祈りの対象として瞑想します。一般的な信心としては、「七つの悲しみのロザリオ」や「聖母の七つの悲しみのチャプレット」などが挙げられ、近年では「聖母マリアの悲しみと汚れなきみ心」への信心も広がりを見せています。

カトリック教会では、七つの悲しみの各シーンごとに「アヴェマリア」を1回ずつ、全体として「主の祈り」を1回唱える祈祷が一般的です。ただし、これはロザリオの祈りの五つの玄義とは別物です。

聖母マリアの七つの悲しみは以下の通りです。

1. シメオンの予言 (ルカ 2:34-35)
2. エジプトへの逃避 (マタイ 2:13)
3. 幼子イエスをエルサレム神殿で見失う (ルカ 2:43-45)
4. 十字架の道行きでのイエスとの出会い
5. ゴルゴタの丘でのイエスの磔刑 (ヨハネ 19:25)
6. イエスが脇腹を槍で突かれ、十字架から降ろされる (ヨハネ 19:34, 19-38)
7. アリマタヤのヨセフによるイエスの埋葬 (ヨハネ 19:40)

歴史と発展

「悲しみの聖母」への信心は、12世紀頃に普及し始め、11世紀のベネディクト会修道士たちの著作にそのルーツが見られます。1221年にはシトー会のシェーナウ修道院が、初めて聖母祭壇に「悲しみの聖母」を設置したとされています。

1423年のケルン地方司教会議で公式に祝日が定められ、当初は北ドイツ、スカンジナビア、スコットランドなどに限られていましたが、徐々に広まりました。1482年には「憐れみの聖母」の称号でローマ・ミサ典礼書に記載され、1727年には教皇ベネディクト13世の勅令によりカトリック教会全体に広まりました。

「聖母マリアの七つの悲しみ」の祝日は、1668年に9月の第3日曜日と定められ、1913年には9月15日に変更されました。聖週間にも行われていた同様の祝典は、1969年に教会暦から削除されました。

東方教会における「悲しみの聖母」

東方正教会でも、聖母マリアの悲しみを主題としたイコンが崇敬されています。特に、シメオンの予言を描いたイコンは、「邪悪な心を和らげるもの」として、2月2日に記念されています。このイコンでは、マリアの胸に7本の剣が突き刺さっている様子が描かれ、七つの悲しみを表しています。

美術における表現

「マーテル・ドロローサ」(悲しみの母) として知られる聖母マリア像は、カトリック美術の主要なテーマの一つです。「スターバト・マーテル」やピエタと並び、聖母マリアの悲しみを表した著名な芸術作品として数多く制作されてきました。

結論

「悲しみの聖母」への信心は、聖母マリアの深い悲しみと、同時に信仰の深さを示す重要なものです。その歴史、典礼、美術作品を通して、聖母マリアの苦しみと慈愛を理解し、より深く信仰を深めることができるでしょう。

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